Arata

あの日のオルガンのArataのネタバレレビュー・内容・結末

あの日のオルガン(2019年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

日付変わって今日3月10日は、東京大空襲があった日。

こちらの映画は、東京の保育園が53名の幼児を疎開をさせ、空襲から命を救ったと言う『事実』を元に作られた作品。


大原櫻子さん演じるみっちゃん先生を中心に、コミカルで、まるでアニメーションの様な演技、カメラワーク、描写の数々がとても良かった。
戦争と言う暗い世の中でも、一般のみなさんが努めて明るく生きており、それがかえって胸を締め付ける想いにさせられる。


疎開初日のヒートアップする議論も、幼児の寝顔がクールダウンさせてくれて、その眼差しにたくましさを感じる。


防空壕内での影絵に始まり、あらゆる場面で工夫を凝らして、かえで先生の言うところの「文化的な暮らし」をさせてあげたいと言う様子が描かれている。


田中直樹さん演じる所長が、召集令状を受け出征するあたりから、いよいよ戦争が悪化し、外は明るいのに薄暗い色味のない世界へと変わってしまい、文化的な暮らしとは程遠くなってしまう。
戦争が終わって、オルガンの演奏で『故郷』の合唱をする事をきっかけに、再び色を取り戻す。
しかし、疎開保育園の幼児達が徐々に帰ってしまい、物悲しさが伝わってくる。

暗いところは暗く映す、暗いところに灯りを灯す、しかし、明るいところに影を落とす、そんな「光」の映し出し方が印象的だった。

みっちゃんとよっちゃんが、川沿いを自転車2人乗りで「この道」をハモっているシーンが、あまりにも美しい。

みっちゃんとけんちゃんが、川に石を投げ入れるシーン、涙が止まらない。

亡くなったよっちゃんからみっちゃんへ、約束の刺繍入りの服が届けられるシーン、物に魂が宿るってあるのかも知れないと思わせてくれる程の存在感があった。


みっちゃん先生が号泣しながらオルガンの弾き語りをするシーン、歌い方が当時の発声法や発音で歌われていて、より一層深いところまで誘われた。

おねしょの子のセーターがほつれていたり、釜戸から猫が出てきたり、その釜戸から煙もうもうと出て来たり、くすっと笑える描写が沢山あって楽しい。


エンディング曲「満月の夕」は名曲。
オリジナルはソウルフラワーユニオンさんとヒートウェイブさんの共作で、阪神淡路大震災の復興を祈った曲で、沢山の方にもカバーされているし、個人的にも大好きな曲。
この映画に、アンサリーさんの声が溶け込んでいる様だった。

エンドクレジット序盤の、疎開先から自分達の元居た場所へ帰ると言うファンタジー映像も良かった。
運良く親や実家が無事だった子達も、そこは決して疎開前とは違う街。
彼等を、そして保育士さん達を、せめて映像の中だけでも元居た場所へ帰してあげたいと言う想いがこもったシーンだと感じた。

平和な世界を願ってやまない。
Arata

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