MasaichiYaguchi

半世界のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

半世界(2018年製作の映画)
3.8
阪本順治監督の最新作では小さな地方都市を舞台に、主演の稲垣吾郎さん演じる炭焼き職人の絋、その妻・初乃と息子の明、そして絋の同級生たち、元自衛官の瑛介とカーディーラーの光彦、これら主要登場人物たちが絋を軸に人間ドラマを紡いでいく。
この作品にヒーローは登場しない、どちらかというと人間的な弱さや駄目さを抱えた人々の方が多く出てくる。
例えば主人公の絋は、同じ炭焼き職人だった父親に引け目を感じていて、それに追い付け、追い越せとばかり仕事に専念することによって家族とのコミュニケーションが疎かになっているという、気付かぬ内に負の連鎖に嵌っている。
その息子・明も学校絡みで問題を抱え、そして同級生だった瑛介も〝訳有り〟で自衛官を辞めて帰郷している。
タイトルが「半世界」ということもあって、劇中に何度か「世界」という言葉が登場する。
本作では大きく二つの世界が表現されていると思う。
一つは瑛介が自衛官時代に海外派遣で体験したグローバリズムの世界であり、もう一つは絋や光彦が日々を送る〝村社会〟とも言える小さなコミュニティの世界。
二つの世界は対照的なので、英語タイトルが〝Another World〟になっているのだと思う。
だがストーリーが進むにつれ、この対照的と思われた二つの世界が実は地続きであることが伝わってくる。
つまり我々が夫々、日々懸命に生きているこの小さな世界の積み重ね、その延長線上にグローバリズムがあるのだということ。
そしてグローバリズムを体験した瑛介の帰郷、この友との再会によって主人公をはじめとした人々の〝転換点〟を見詰めるドラマにもなっている。
この作品では終盤に〝劇的〟な展開があるが、その〝出来事〟を通して本作は、この世界で生きるということ、家族や友情とは何かということを我々に投げかけていると思う。