うるぐす

半世界のうるぐすのレビュー・感想・評価

半世界(2018年製作の映画)
4.2
「お前のことは、お前よりも知ってる」
と言ってもらえる人生に勝るものなんてないと思うんです。
あと、夜の海に毛布を持って行って一緒にくるまってお酒を飲む。
これ以上に美しい瞬間があるだろうか?




【以下詳細】
この映画で描かれるのは、
小さな田舎の、小さな村の、小さな世界。

だって、
主人公は炭職人ですよ?

「13人の刺客」以降悪役のバイプレーヤー的な役割を担うことが増加した稲垣吾郎という一役者の新境地だったのは間違いない。
吾郎さん演じる絋はとにかくみっともなくてかっこ悪い、本当に普通の人。親から継いだ仕事をしていて。

それに対して、8年ぶりに村で暮らすことになった瑛介は海外赴任経験もある元自衛官。演じるのは「まんぷく」でおなじみ長谷川博己。もう、長谷川博己が止まらない。2019年。すごいのなんの。この瑛介というキャラクターによって「半世界」というタイトルがグッと説得力を増すのです。
そもそもこの「半世界」というタイトルは小石清という写真家の写真集から取られていて、この小石清さんは写真家として生きている最中に、日中戦争が起こって、戦地に赴くことになる。そして、その戦況を取るのではなくて、戦地に暮らす人々を撮り続けて、それらを後に「半世界」というタイトルで発表する。
つまり、「半世界」とは文字通り「半分ほどの世界」でありながら同時に「反世界」だと。戦争が行われてる世界でありながら、それと同時に行われていない世界も同時に存在する。
ということなわけです。

長谷川博己演じる瑛介は、自衛官として見てきたわけです。残酷な「世界」を。そして、それこそが世界だと信じていて、村に戻ってからも、どこか浮世離れている。

しかし、この絋(稲垣吾郎)や光彦(渋川清彦)の生きるこの村での生活も、間違いなく世界。小さいながらも間違いなく存在する世界。
新聞やニュースになるもの以外にも世界はある。

そのことを説教的にではなくユーモラスに描くこの作品の存在意義と、そこで主演する稲垣吾郎のこれからが楽しみで仕方ない。

家族がいて、友達がいて。
それでも人はどこか孤独で。
思った通りにはいかない日々を
過ごし、もがき、生きる。
かっこ悪くて無様で
不安定なのに、
美しい。
そんなものがたり。
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