渡邉ホマレ

東京彗星の渡邉ホマレのレビュー・感想・評価

東京彗星(2017年製作の映画)
3.6
シネマート新宿にて鑑賞。

まず、オリジナルのディザスターモノを短編に落とし込むという、ある種無謀ともいえる企画を、ガッツと情熱で貫き通した監督とプロデューサー、スタッフには兎に角頭が下がるし、カッコいいと思う。
約30分という短い時間で描くための工夫が全編に漲っており、壮大な外枠(東京彗星)の中に小さな対象物(10歳の少年)を放り込むことでスケール感を演出しているのだと感じられた。
メインの登場人物は3人だが、それぞれにキャラクターがしっかり構築されており、いきいきと描かれていた。
『エヴァ』というか『シン・ゴジラ』からバトンを受け取ったかのような、災害シミュレーションの側面は、ニュース映像や表示させるテロップなどにリアリティがあり、被災者の直接的な姿をあえて「見せない」事で逆に恐怖心を煽る演出は『シン・ゴジラ』から学んだのかも知れない。
当事者意識を煽るという意味でも、説教臭くなく、映像で示唆する事にも成功している。

ただし、やはり全てがうまくいっているわけではないと思う。
たとえば兄の描写はもう少し深みがあって良いと思うし、東京に残る人々を果たして日本政府(と言えども)放置しておくかな…?という疑問、あと「その牛乳大丈夫かな…?」など、「短編だから」ではない部分でも首をひねる箇所も散見。
何より、彗星=流れ星だからこそのあのクライマックスにはハッとさせられただけに、弟のセリフが聞き取れない…と残念だった。

……いや、ちがうな。
こういう事が言いたかったんじゃない。

この映画では、あの瞬間に弟を抱きしめるべきだったのは兄だったんじゃないか?
彼にこそ立ち上がらせるべきだったんじゃないか?
そうする事でようやく、兄は弟が誇りたかったヒーローになれた(チャンプさんの持つヒーローとしての資質の継承ができた)んじゃないか…?

鑑賞後しばらくしてから、そんな事を思った。

大変チャレンジングだっただけに、この題材でもう少しの予算と、長編とはいわないから1時間ぐらいの時間を監督に与えて、情熱とガッツを炸裂させてほしいな、と。
そしてできれば、実は本当に大変な「その後」をこそ、描いてほしいと。

その作品を是非観てみたいと思った。