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ヘレディタリー/継承のYAEPINのレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.8
音響のダイナミクス、アハ体験かのような静かなズームとパン、均整の取れすぎている構図の全てが不気味そのもので、まともに直視出来なかった。
ウェス・アンダーソンとキューブリックの調合したような画面だ。

常に醸し出されるギリギリの緊張感と、悪いことが起きる予感で死にそうになりながら観ていた。(その割実際に悪いことが起きるシーンは少なめだが)
どこにも逃げられず、声も上げられない劇場で観ていたら、恐怖と緊張で頭がおかしくなりそうだ。

ホラー映画における恐怖は、惨事の被害者の挙動、怖がり方からこそもたらされると思うが、トニ・コレットの表情だけで一級品の怪奇現象だ。『シャイニング』の奥さん役シェリー・デュヴァルばりに、先程まで正常だった観客の精神状態を揺さぶってくる。
本当の恐怖に直面した時、誰しもあんな顔になるのだという気にもなる。

アリ・アスターは家族というコミュニティに対して激しい恨み、トラウマ、コンプレックスを抱いているとしか思えないが、こちらにも同じ気分を味わわせてくるのでタチが悪い。
家族がいるからこんなことになるんだ…こんな目に遭うなら家族など一生いらんぞ…という気分になってしまう。

トニ・コレットファミリーを襲う怪奇現象の原因が徐々に明らかになるにつれて、怖さは若干薄れていく。
「この家族がヤバすぎる事情を抱えているだけだ」と心を落ち着かせることもできるが、複雑で悲しい家庭環境に生まれることは自分で避けようがない。自分も同じ状況に立たされたらどうなるか分からないと思うと、心底ゾッとした。
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