こうん

ヘレディタリー/継承のこうんのレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.2
映画を観ていると否応なく「スポンティニアス・コンバッション!」と叫びたくなる瞬間があって、それが本作にも確実にあったのでおおむね満足。チョロチョロパッパではなくいきなりバーっと、しかもガブリエルさんが文字通りバーンするのだから、タマらんですよ。

さて本作はアトロクにおいてホラー映画をフィジカルにロジカルに愛好し語れる三宅隆太監督が「今世紀最恐」と荒ぶっていらっしゃったので、そりゃあもう期待は青天井。

ちなみに僕の最恐映画は「悪いけ」。デジタルリマスター4K上映の時は劇場から逃げ出したくなるくらいに怖かった。
あれに匹敵する体験ができるかも、否、体験したい!
…と思って初日にぶっこんできました。

思ってた怖さとちゃう!
…しかしまぁ、色々な感情の果てに「よく出来たオカルトホラーだなぁ」という着地の感想。

まず冒頭の冒頭の説明のタイトルのデザインの感じが良かったし、祖母の葬式の時にチラチラやばそうな人が映っていて「ヤバい!(歓喜)」と思ったし、ミリー・シャピロちゃん演じるチャーリーの不敵な面構えとなで肩にもう不穏感びんびん!で。
こりゃあ「ローズマリーの赤ちゃん」か「エスター」かと思ってたら、なんとまぁ、キーパーソンと思っていた人物が(映画表現の倫理の上で)ヤバい死に方をして、そこからはもう先の読めない展開&ジワジワと神経削る描写で、楽しかったなぁ。
中盤は混乱をきたした家族の葛藤劇で、トニ・コレット演じる母ちゃんと息子の決定的な乖離を浮き彫りにするある台詞が出てきたところでは場内から「ヒッ」という声が漏れてたね。絶対に言われたくないし言ってはいけない言葉。その「ヒッ」という悲鳴は僕の聞いた限り全部女性の声だったのがまた殊更にアレですわ。リアルですわ。

この映画はどこへ向かうのか?という点で、本作は上手に揺さぶりをかけつつジワジワと歩を進める感じで、そういう意味では楽しかったけど、終盤にかけて映画の貌がはっきり見えてくるにしたがって、テンションが下降するのは致し方なしかもしれないけど、「…矢張りそうなのね」となってしまったのも事実。
いやでも、思い返すと前半で映っていたものの多くが禍々しくて、それらが物語の収束の段階で加担していることが、楽しくもあって、楽しかったっすよ。部屋の間取りとか、なんでアイツの部屋がちょっと高いところにあるのか…もうそういうことじゃん!

ただ結末で、あの場に正気の人が1人もいないこともあって、あのバッドエンドが相対化され、まさに箱庭的に丸く収まり現実のカリカチュアとして座りがよく終わっている感じが、好みの分かれるところかな。
寓話的なんだよね。
ちょっと「おめでとう!」と思ったり。

監督としては距離をとって相対化するのがベストと判断したであろうことがわかった気がした。
恐怖映画として閉じた構造にしたのが、好みとしてはもったいなく感じたな。

上記の点と、展開を掴ませまいとしたツイストの効いたストーリーラインが煩雑に感じたけど、個々の場面の描写はイチイチ良かった。光に対するセンスというか、光をあてる/あてないの塩梅がよく、闇の中からのホラー描写は心霊的で良かった。ちょっと「回転」とか思い出した。

総じてよく出来たジャンル映画!という感じでありつつ、この映画の中で描かれる恐怖は現実ではあるけれど、映画そのものが野蛮に現実にはみ出してしまう危うさはなくって、悪い意味でもよく出来た映画ではないかと思いますね。

なにかしらの即し難い破調がある方が、俺にとっては怖い。
(例、悪いけ)

しかしこれが長編処女作だなんて…才能はあるもんだし、A24はそういう才能をうまく活かすのが上手いなと感心します。

あと15分刈り込めればなおさら良かったかもですけど素敵な人体発火現象があったので僕は満足です。
スポンティニアス・コンバッション!
こうん

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