茶一郎

ヘレディタリー/継承の茶一郎のレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.1
 家族というホラー。「21世紀で最も怖いホラー」、「現代版『エクソシスト』」の呼び声が高い最恐ホラー『ヘレディタリー』降臨。これは怖いというより「厭(いや)」、今後の人生で絶対、忘れないであろう厭〜なシーンが何個もある優れた厭家族映画でした。

 『ヘレディタリー』の恐怖の根源は、幽霊が出るシーンになく、最近のホラーでは当たり前になった大きな音で驚かすビックリシーンにもない、もっと深い所、自分がこういう状況に置かれたら、きっと登場人物と同じ厭な行動を取ってしまうであろうという恐ろしさにあります。大きな過失を犯してしまった登場人物が「睡眠」を「逃避」の手段にし、物事の対処を他人に任せる姿勢。これには共感してしまうからこそ、心底ゾッとさせられました。厭。
 他にも、通常のホラーもしくは家族映画において大きな事故が起きた場合、普通は家族が団結するものですが、本作『ヘレディタリー」は徹底的にその希望をハズし、全くその事故が家族の絆にとっては意味を持たない、「無意味じゃん!」というトニ・コレットの絶叫がまだ耳に残っています。

 こんな優れた厭な映画を作った才能ある作り手は、何と本作が初長編監督というアリ・アスター。過去の短編『The Strange Thing About Johnsons』も家族(近親者)の愛、行き過ぎた絆が凄惨な結果を生む最恐に厭な家族映画でしたが、本作『ヘレディタリー』は飛び抜けています。
 アリ・アスター監督曰く「『ホラー』を題材にすれば、家族に厭な事が起きてもそれがカタルシスに繋がる」と。あくまで本作がオカルト・ホラーというより家族映画の枠に収まっているのは、アリ・アスター監督のこの「ホラー」の土台を利用して厭なモノを見せてやろうという姿勢にあるようです。
 
 家族映画とは言うものの、宣伝文句にある『エクソシスト』的オカルト・ホラーへの移行も実にスムーズ、そして全ての伏線が回収されるラストは見事すぎます。
 恐怖のラストを見るに、この『ヘレディタリー』の恐怖は『ヘレディタリー』(遺伝・世襲)にある。「世襲しろ」、「血を継げ」、という世襲強要の恐怖とも言えます。これは昨今の、血を継がない者同士が家族を作る『万引き家族』、『デッドプール2』、『ボヘミアン・ラプソディ』など「疑似家族映画」の潮流、現代のポリティカリコレクトネス的「家族」の流れに反するアンチ・現代の家族映画の構えです。

 ちなみに本作『ヘレディタリー』には本物の“幽霊”が映っているようです。『エクソシスト』、『サスペリア』、『ローズマリーの赤ちゃん』、『オーメン』、優れたホラー映画はことごとく本物の“幽霊”をフィルムに刻み、文字通り呪われた作品として歴史に名を刻みましたが、『ヘレディタリー』も仲間入り。いやはや家族って怖いですね……ヘイル!サタン!
茶一郎

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