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ヘレディタリー/継承のpanpieのレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.5
最初から音楽が怖い。
ずっと重低音が響いている。
恐怖心を煽る。
1度目は映画の日に観に行ったのだが怖くて途中目をつぶったり薄眼を開けて観たりして見逃した所がありそこが日に日に気になり次第に脳内を占めていったのですかさず次の休みに2度目を観に行ってしまった。

自分が生きてきた間こんな超常現象は残念だがない。
自分が招いてしまったことの方が圧倒的に多いと思うけど何かの力で逆らえない流れに呑まれているなと思う事もあり神のなせる技なのか定められた運命なのかと流れに逆らえず諦める事も結構あった。
グラハム家の場合は逆らえないどころか絶対的な力というか生まれついた運命というかあまりにも残酷でこれは逃げたくても逃げられない。
今日(こんにち)考えられない様な事故や事件がニュースで報道される事がある。
その度にもしかして考え過ぎなんだろうけど悪魔の仕業ではないかと頭をよぎる事がたまにある。
人間は本来善と悪の両面を併せ持って産まれ、たまたまその時に悪の部分が表に出ただけなのかもしれない。
私達日本人はキリスト教徒でなければ神と悪魔について考える事は日常においてなかなかないに等しい。
かく言う私もキリスト教徒ではないし全くの不信心者なのでにわかに信じ難いのだけど何故だろう、悪魔や悪霊は存在すると信じている。
でも悪魔崇拝などのカルト教団に、邪悪な思想の教祖に魂を捧げてしまうのは理解できないがタイミングが合えば誰でもも今作のアニーの様になってしまう事があるのかもしれない。



↓ここからネタバレあります。↓








アニーはあまりにも家族に不幸が多過ぎてここまできたらお祓いするとか何かした方がいいよ!と忠告したくなる程のレベルに酷いのだけどエキセントリックな母親から遠ざかり見て見ぬ振りをして気付かない振りをしてこれまで生きてきたんだろう。
ちょっと分かる。
私の母はアニーの母エレンとは似ても似つかないので同じ境遇とは言えないが母親は置いといて私もどちらかと言うと結論を先送りするタチなので分からなくもない。
気付いていたけど本当のところ知りたくなかったのかな。
私は関係ない。
臭いものには蓋。
ただ関わり合いたくなかっただけ。
だから薄々感づいていて息子のピーターを母に近づけたくなかった。
では何故チャーリーを母に与えたのか?
アニーの母が亡くなって事が起こる前にチャーリーが寝付く頃おばあちゃん子の娘を心配してアニーはチャーリーの部屋を訪れるシーンがある。
母娘の会話は普通に愛情に溢れていた。
可愛くなかった訳ではなかったんだ。
アニーの父も兄も謎の死を遂げているからグラハム家の男が呪われていると思っていた。
だからチャーリーは女の子だしと安心しきっていたのかもしれない。
女の子なら母も手を出せないと。
そう思い込んでいたんだ。
アニーの安心した様子と裏腹に私はチャーリーの言動からこの子がちょっと普通の子でなく何か邪悪な存在なのかもと初めから予感した。
だって授業中に鳩が窓ガラスに激突して落ちクラス中がざわざわしていた時に彼女の目線は先生の机にあるハサミを見ていたから。
もうあそこで分かってしまった。
案の定授業が終わってからチャーリーは鳩の死骸を眺めている。
辺りに誰もいないと確認してそしてポケットからハサミを取り出し…

チャーリー役のミリー・シャピロって絶対忘れられない顔をしている!
最初に現れた時に失礼だけど何かとても怖く感じた。
調べてみたらブロードウェイでトニー賞を受賞しグラミー賞候補になった事のある歌手だった!
Apple Musicを調べてみたけど残念ながら彼女の曲を聴くことは出来なかった。
どんな風に歌うんだろう。
聴いてみたい。

見逃していたのはチャーリーがアレルギーを起こしピーターが慌てて病院に車を走らせたあのシーン。
チャーリーはナッツアレルギーがあるのにナッツ入りのチョコレートケーキを食べてしまう。
ピーターはお目当ての彼女にご執心で妹の食べるケーキにナッツが入っているかを確認するゆとりどころか配慮もなかった。
酷い兄だ。
でも無理もない。
クラスで気になっている女の子にパーティでお近付きになれるなんてそりゃあ天にも昇る心地なのはよく分かる。
実際それが目当てだったんだし。
お荷物の妹は邪魔でしかなかった。
アナフィラキシーショックを起こしたチャーリーは子供ながらも身体の異変に気付き水を飲んだり何とかこの苦況に自分で対処しようと努力するが次第に呼吸が荒くなり苦しくなって顔も腫れ上がってくる。
ピーターをやっと探し出すがピーターはマリファナを吸っているところだった。
お目当ての彼女の事しか考えてない。
妹を放っぽり出して。
母親から夜の外出を許してもらう為に仕方なく連れて来た妹が生死を彷徨う程のアレルギーを起こしてしまった。
その後のピーターの行動は早かったものの不安と焦りで運転は荒くなって行く。
葬儀の時にチャーリーがチョコレートを食べている時にアニーが「ナッツは入ってない?エピペンを忘れてきたの」と言っていた。
ピーターはかなり大人っぽいが成人してない。
それなのにアニーはエピペンを持たせずに厄介な妹をピーターに託した。
そしてあんな事になるなんて思いもせずに。
私が確認したかったのはあの電柱にあのマークが描かれていたかどうかだった。
今日は見つけた。
あった。
ああ、やっぱりそういう事なんだ。
これも仕組まれていたというかもう決められた事だったんだ。
息つく間もなく起こってしまった事故。
道路に横たわっていたのは鹿?
チャーリーの絶叫さえも聞こえなかった。
アナフィラキシーショックで暴れる妹がまるでいないかのように後部座席は静寂を取り戻している。
直後のピーター役のアレックス・ウォルフの演技が恐ろしい程自然だと再確認した。
バックミラーを見るが怖くてちらっと見るのだが慌てて見るのをやめて恐怖に震えて涙を流す。
夢なのかその後にバックミラーを覗くシーンがあって見たくないと思っても人間て好奇心に勝てないんだと思った。
身体は強張ってショックで踏みしめた右足がブレーキに張り付いている。
ピーターは震える両手をハンドルからゆっくりとはがす様にして離しギアをパーキングに入れると張り付いた右足をブレーキパッドからはずしやっとの思いで家に帰ってくると車から降り後部座席を一瞥もせず一目散に一人部屋に籠る。
次の朝アニーが買い物に行くと階下でスティーヴンに話している声が聞こえドアが閉まる音が聞こえる。
その時スクリーン上では目を見開き恐怖に震えるピーターをずっと映し出している。
…チャーリーはどうなっているの?
私のざわざわが止まらない。
そしてアニーの絶叫。
ああ、やっぱりチャーリーは…
どんな事になっているか想像がつく。
それだけに恐ろしい。
その後に蟻にたかられ真っ黒になったチャーリーの頭部が片目だけじっと見つめるシーンが短いがある。
息を呑んだ。
さぁ、ここからはじまりはじまり。

アニーにとって重要な意味を持つジョーン役はアン・ダウドだった。
アン・ダウドといえば「コンプライアンス」の店長サンドラ役が浮かぶ。
あれも胸糞だったけど彼女が出てきたらこれはただ事ではないという事だ。
そう思うと怖い。
昼休み中既におかしくなっているピーターに向かって道路を挟んで向かい側から大声で「Get out!(身体から出て行け)」と叫び続けるジョーンも最高に怖い。
母のアルバムの中に母と頬寄せて笑顔のジョーンを発見したアニーもこれが巧妙に仕組まれた罠だったとハメられた事に気付くが時既に遅し。
予定通りに事は進んでいるという事だろう。
アニー役のトニ・コレットの変化が後半から凄くて畳み掛ける展開に目が離せない。
顔が怖い。
ラストは賛否あるようだけど恐らくジョーン(じゃなかったらもしかしてアニーの母?)の声でチャーリーに呼び掛けるという事はやはりピーターの体の中に入ったペイモンとはチャーリーだったという事か?
頭が混乱している私にはそれが分かる様に最後にチャーリーの癖の舌で鳴らす例の音〝コッ〟と鳴るのを期待してしまった。笑
いやいや、そんな事したら陳腐になってしまうのか。

夫スティーヴン役にガブリエル・バーンと芸達者が揃った納得のキャスティングで主要登場人物は5人。
アニーはミニチュア模型作家という設定でそのミニチュア模型はとても精巧に出来ている。
外科手術の時に医者がかける様な分厚いレンズの付いた眼鏡をかけて模型を製作する。
冒頭ミニチュア模型のある部屋が次第にアップになりそのまま本物のピーターの部屋が描かれた。
個展の為に作っていた模型が次第に狂気を帯びていくアニーを表現している。
ピーターが起こした事故現場をミニチュア模型で作るアニーは既に狂気に囚われていた。
その後のチャーリーを失った家族の食事風景はアニーが息子に言ってはならない言葉を浴びせかけ無理もないが頭がおかしくなっている事を表していて本当にトニ・コレットが怖い。
以前にアニーが夢遊病を患っていてまだ小さかったピーターとチャーリーに灯油をかけマッチを擦ったというエピソードがあったり兄も父も精神を病んでいたという設定だけで映像には描かれていない事が逆に想像させ想像力豊か過ぎる私の恐怖心を煽った。
ミニチュア模型もチャーリーの描く絵も庭に建つログハウスに灯る赤い灯もなかなか素晴らしくて作品を盛り上げている。
かなり好きな作品だった。

監督・脚本はアリ・アスター。
前作「Munchausen」「The Strange Thing About The Johnsons」はYouTubeで観れる。
何方も字幕はないので英語が堪能でない私は想像力を駆使して観たのだが短いので参考までに是非ご覧になってほしい。
何方もかなりの胸糞でアリ・アスターという人は何でこんな事思いつくんだろうと思った。
何年も温めてきたという今作の脚本の質の高さを思い知る。
次作もホラーだそうで期待している。


ラストに向かって少しずつピースがはまっていく恐ろしく丁寧な描き方にハマってしまった。
2回目は何処でどうなるか大分分かっていたけどやっぱり怖かった。
観終わってしばらく経つとまた観たいと思ってしまう。
ちょっと中毒性ある?
観たい映画が最近溢れているのにハマっているのが「ボヘミアンラプソディ」とこれだなんて。笑
「ボヘミアンラプソディ」は近々2回目を娘と観る予定だけど来週観に行かれなかったらまた「ヘレディタリー」を観に行くかも。笑笑
その位お気に入りだった。
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