Torichock

ヘレディタリー/継承のTorichockのレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.3

2018は全部書くという大見栄をきって、書けたのは劇場鑑賞の半分弱ぐらいという、なんとも呆れた結果に至ったことを、みなさんにごめんなさいしつつ、わかったことといえば、何か書きたくなる映画はちゃんと書くし、書けない・手に負えない内容の映画はなかなか書けないし、書くほどでもない映画は書く気が起きないという、まあ、書く確率が低めな僕を、来年も見守ってくれたら幸いです。
さて、2018年の最後のレビューは、コレしかないよね、実際問題。


「Hereditary/ヘレディタリー 継承」

本当に怖いこととはなんだろう。
逆らう事ができない権力?
飲酒による事件の数々?
単細胞の煽り運転?

No,No,No...(「GET OUT」より)

何より怖いこと、それは、本人が気づかぬ間に運命を決められ、そして、抗うこともできぬほどの歯車で、その運命に連れ去られることだ。
それは、人間が持つことのできる権力なんか、ハナクソのような次元の、圧倒的なチカラ。

自分が自分じゃなくなるよう仕向けられるもの以上、この世界で邪悪なことはない、確実に。

とても興味深い構造を持っていて、母親の職業であるミニチュア工芸と、我々が日々暮らしている人間世界が結びつく。
彼女が作る作品は、お世辞にも品の良いものではない。彼女自身のトラウマ的な出来事をミニチュアにしているかのような作品が支配してる。
しかしどうだろう?我々人間も、トラウマ的な経験とその恐怖を身体に深く刻み込んでいる、気付かぬうちに。だからこそ、僕たちは注意深く生きてこれているわけだし、痛みや不安や恐怖を避けようと察知出来る。
が、考え方を変えればこれもまた、「トラウマ」に支配され、コントロールされた生き方という言い方もできるような気がする。

そもそもだ。

人は生まれる家族を選べやしない。

虐待もネグレクトも子供殺しも親殺しも、避けることなんかできない。
年末だから、街頭でキリスト教の教えを拡声器で騒いでる連中も増えてきたが、笑える話である。
あいつらが盲信する、"信じるものは救われる"という考え方は、反吐がでるほど現金で、怠惰な話だ。
何かを信じる信じないにたどり着く間もなく、死ぬ人間もいるんだよ。
まともな家族に産まれたかったら、母ちゃんの腹の中で祈れ?ってか、Jesus??

この作品の中に蔓延る、様々な抗いようのない出来事は、主人公が向かう邪悪かつ祝祭にも近い斜め上をいく結末としっかり結びついている。
この作品内で、彼を導く運命の歯車の正体はオカルト的なものだし、だからこそ、ホラー映画として最高級の恐怖を与えてくれるんだけど、僕たちの人生にはそんな、アイデンティティを根こそぎ奪うような運命的な歯車が、あちらこちらにある。

そして最も怖いのは、自分は被害者側にしか回らない、奪う側に回るはずがないとタカを括ってる人間こそが、しっかりと目には見えない"奪う側"の歯車に巻き込まれ、あっという間に姿形を変えたバケモノになってしまうのだ。
本人に自覚がある分、タチが悪いという言葉もあるし、僕もそう思うけれど、正直な気持ちは味噌も糞も一緒。どっちにしたって、バケモノだし、危険。

じゃあ、どうやったらこの地獄のような世界で生きていけば良いのだろうか?
傷つき傷つけ、殺し殺され、壊し壊されるしかないのか?
それはわからない。
いや、まぁ多かれ少なかれ、そういうものだ。

でも、それぞれがそれぞれの命に責任を持って生きることそれだけが、脆くか弱い人間の心に巣食う邪悪な"運命"を、多少はマシな方に逸らすことができるのではないだろうか?

この作品が導いた結末と、僕の感想はもはや結びついてないかもしれない。いや、結びついてない、ハッキリ。

真剣に耳を傾けて、しっかりと目を見開く。
罪に躊躇する必要はないし、罰に怯える必要もない。
愛を無駄にせず、自分自身に責任を持つ。
右の頬を打たれたら、打ち返せ。

愚鈍さを呪い
虚栄を暴き
唯我主義を打ち壊し
自己欺瞞を捨て
群れに従うことを拒否し
見通しの欠如を憎み
過去の正統を踏まえ
非生産的なプライドを投げ捨て
美意識の欠如なく生きろ。
(サタニズムより)

人生はクソだし、不平不満だらけで不平等だ。
だからこそ、やっぱり自分を生きるしかない。それを邪魔をするような、奪う側の歯車が、もしもあなたを傷つけようとするのなら、遠慮なく殺してしまえ。
(もちろん、ある程度の秩序としてのルールはあるのが前提だよ。自分勝手は、それこそ断罪されるべきもの)

ぶっちゃけ、何を言ってるかわからなくなってきたので、そろそろ締めようと思いますが、こういう熱い思いが込み上げてくる要素はたくさんあったし、悪の実体の焦点が、どうすることもできない歯車という、僕の大好物を最高の形で表現された素晴らしいホラーだったし、家族としては「万引き家族」なんてすっ飛んじゃうほど興味深いし、何より、こういう自分なりのドグマに通じることのできるほど、器の広い作品だったと感じてる。


もがいてるその手で明日を奪え!
自分の人生を手放すな!

と後押しされた。
今年最後のレビューだし、アンジュルム 引用させてください。いいよね?

"夢に見てた自分じゃなくても、真っ当に暮らしていく今時"

どんな人生も、誰のものでもない。

すごいよ、この作品。



また来年!
Torichock

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