青山

ヘレディタリー/継承の青山のレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.0

アニーの母、エレンが亡くなった。確執があった親子だったが喪失感は強かった。アニーは夫のスティーブンと息子のピーター、娘のチャーリーと悲しみを乗り越えようとするが、エレンの死後、家では不可解なことが起こるようになった。そして、一家を悲劇が襲う......。



これは、なんだったのか。分かりません。理解できている気はしなく、自分が理解できているかどうかさえ分からない。何を見たんだろうという戸惑いを抱えつつ、さらに強く残ったのはとんでもないものを見てしまったという興奮と恐怖でした。
1つだけ言えるのは、私が本作を好きだということ。


ここんとこ、オーソドックスなというか、古典的なというか、いかにもホラー映画でございというホラー映画が復権しているように思います。
本作も一見その一つ。謎の多かった母親の死によって現れる怪異。エクトプラズム、交霊会、そしてほにゃほにゃの存在と、今が本当に令和なのか疑いたくなるほどに古典的なホラー映画の道具立てを取り揃えております。
そしてデカい音でびびらせる演出なども少なく、あってもそこに必然性があったりとなかなか上品な怖がらせ方も乙なもの......。

......なんていう古き良きホラー要素を隠れ蓑に、とある決定的なシーン以降、本作は見たことのないような恐怖をバシバシと投げつけてくるようになるのです。

まず、その問題のとある決定的なシーンですが、ここはまだ若い私でもさすがにおしっこ漏らしたレベルで怖かったです。それは、びっくりとかグロいとかそういうのとは次元の違う、心理的な、あまりに心理的な恐怖。
ホラー映画の怖さってのは、自分には関係のないところで起きているからこそ無責任に怖がれる面白さでもあるわけですが、このシーンはもう冷や水を浴びせられたような、現実世界で最も怖い出来事なわけですね。一瞬のグロいシーンや怒号のような悲鳴などのホラーらしい演出もここではもっとエグく忌々しいものとして描かれています。

この奇妙な嫌悪感は何なんだろう?と思ったのですが、監督が本作を作る際に『ローズマリーの赤ちゃん』などの古典ホラーと一緒に『普通の人々』を念頭に置いていたと知って納得しました。
そう、この映画は家庭崩壊ホームドラマをホラーという鋳型に注いだもの。だから怖さの質が普通のホラー映画とは根本的に違うわけなんです。
なんせ、入り込んじゃいますからね。
起こる出来事自体は、ホラー映画では普通のことなんですよ。でも登場人物たちがきちんと人間として描かれていることで、怪現象も自分の身に起こっているかのような近さで感じられる。普段ホラーを見るとき、キャラクターたちに対して我々は俯瞰の見方で「次は誰が死ぬかな」とか「こいつうぜえな、早く死ねよ」などと考えながら見ますよね。でも本作にそれは通用しない。だから、怖さが本当に忌々しく起こってはならないこととして感じられるわけなんです。



あと、もっと根源的な、頭悪そうなことを言ってしまうなら、登場人物の顔が怖い。

まず主人公のアニーは完全に『シャイニング』のオカンの再来。しかもシャイニングのオカンは悪い人でも憑かれてるわけでもないのに顔怖くて役柄に合ってなかったのに対して、こちらはもうぴったし。度重なる悲劇に見舞われ怪現象に襲われと散々な目に遭ってるから顔が怖くなるのにも納得ができちゃって、そのことも怖いです。"あの"シーンなんかはつらすぎて思わず巻き戻してもう一回観ましたよね。つれえ。

娘のチャーリーも顔が怖い。
たしかローティーンの設定だった気がしますが、5歳くらいの幼女のようなあどけなさと、30代の女性のような妖艶さと、人生の終わりにさしかかった老女のような全てを悟ったような老成までもがこの少女の顔には同居しているのです。恐ろしや。

あと、地味に息子のピーターくんの気弱そうな顔も見てるこっちまで不安になって別の意味で怖いです。



で、ほとんど最後の方まで、だんだんエスカレートしながらこの異質の恐怖は続くんですが、最後がまたわけわかんないっすよね〜〜。
いや、なんとなーく何が起きたのかは分かるものの、たぶんこれかなり宗教的な知識が必要系と思われ、きっと知識があった上でここまでの伏線を回収すると見えてくるものがあるんでしょう。
ただ、わからなかったらわからないなりに、なんかもう超展開すぎて笑えてきちゃいます。ここまでガクガク震えて観てたのに、最後だけ「ぷふっ、なんぞこれ」とアイスコーヒー吹いちゃいましたよ。ウケる。

























コッ
青山

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