モウドクウサギ

サムライと愚か者-オリンパス事件の全貌-のモウドクウサギのレビュー・感想・評価

5.0
まず、OLYMPUSには特段の思い入れはない。カメラやレンズはSIGMA一筋で、ビッグカメラで製品デモを触った程度。記憶の限りで一秒たりとも株主になった事はない。医療面では知らぬところでお世話になってるかもしれない。
今作はご存知、『OLYMPUSの巨額損失隠し事件』にまつわるドキュメンタリーで、解雇された元CEO、外人(GAIZIN←差別用語)社長のウッドフォード氏の独白を軸に描かれる。中立的かどうかという問題はあろうが、心底彼が不憫に思えてくる。体良く言えば組織改革のための外人社長の抜擢だが、実態はリストラ策を推進させるための捨て駒とも見て取れる。無価値に思える国内の休眠会社の買収に端を発し、ファクタ誌が不正会計疑惑をスッパ抜き、ウッドフォード氏の目に止まる。当事の会長である菊川氏をはじめとする役員陣に説明を求めた矢先、緊急役員会により「独断専行的で、コミュニケーション不全」という理由でCEOを解雇される。日本自体が排他的かつ隠蔽体質なのは今に始まった話ではないが、一連の事件を通して、根の深さ、日本の機関投資家の“幽霊”ないしは“空気”感もよくよく感じさせられる。近視眼的ではなく、いや、本来的に正しく、組織のために動こうとすると潰される。繰り返すが、今に始まった話ではなく、そして日本企業や日本における一定集団が変わらない泥沼のような風土である事を今作および、この事件を通して突き付けられる。
「日本企業のもたれ合いが日本経済に大きな損失をもたらしている」と言う、ウッドフォード氏は臆病で逃げ出したのではない。臆病な彼らが追放したのだ。一方で、菊川氏が本当に悪人だったのか、渡された腐ったバトンに決着をつけなければという思いは当然あったはずだ。
「私はあなたのプードルではない」二者は決定的に決別したが、真相は暴かれ、考える機会を得たぶんOLYMPUSにとっては良かったはずだ。
2015年制作だそうだが、日本公開は今。ごく小規模で…。ドキュメンタリーとして出来が特別良い訳ではないなど、いろいろ思う所あるが、チャンスがあれば観てほしい。

※監督インタビュー備忘メモ
http://rooftop.cc/interview/180530185255.php