七沖

詩季織々の七沖のレビュー・感想・評価

詩季織々(2018年製作の映画)
3.4
〝あの頃の思い出が、そっと背中を押した。〟
風景が綺麗で、思わず中国に旅行に行きたくなる作品だった。

『君の名は。』のコミックス・ウェーブ・フィルムによる、中国を舞台とした「陽だまりの朝食」「小さなファッションショー」「上海恋」短編3部作。

「陽だまりの朝食」
序盤は完全にビーフンの食レポ。最初の1分くらいならいいのだが、これが結構長い。グルメ番組を観に来たのだろうかと思ってしまったが、間違いなくビーフンは食べたくなった。
モノローグが多くて抑揚に乏しい。狙ってやっているのだと思うが、主人公が主体的に行動するシーンがなく、周囲で起こっていることを解説しているだけのような気がして、三部作の中で一番記憶に残らない作品だった…。好きな子を見ていたい気持ちと郷土料理愛だけは共感。

「小さなファッションショー」
広州に暮らすトップモデルの姉・イリンと、ファッションデザイナーの妹・ルルが喧嘩して和解する話。これは面白かった。妹にとって憧れの姉でい続けようとするあまり、体を壊してしまうイリン。期待の新人からのプレッシャーや、無意識に向けていたルルへのキツイ言葉…必死さ故に周りが見えなくなって自滅していく感じ、なんか分かる気がする。オカマのスティーブがいい感じにストーリーを和らげてくれた。

「上海恋」
石庫門に住むリモとシャオユは惹かれ合っていたが、高校受験シーズンになって疎遠になっていき…という話。
まず、石庫門という場所を初めて知った。これは行ってみたい。
そしてカセットテープを使った文通がとても可愛らしく、時代を感じさせる。ラジカセの中でテープが詰まって、鉛筆でテープを巻き直す動作に懐かしくなった。
リモが時を経てから初めてシャオユとの決定的なすれ違いを自覚するシーンは、三部作のなかでもっともエモく、新海誠スピリッツを感じた。

中国の衣食住行(行というのは、移動や交通を意味するらしい)をテーマにした作品とのことで、まさに三部作それぞれが衣・食・住そして全作品通して行が描かれている。
生活に直結する要素なので、本当はもっと猥雑だったり生々しかったりするのかもしれないが、それらを綺麗に魅力的に見せるアニメーションの力を堪能できる作品だった。

だが、最後の最後のシーンだけは、もっとうまくやって欲しかった…。
七沖

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