鋼鉄隊長

詩季織々の鋼鉄隊長のレビュー・感想・評価

詩季織々(2018年製作の映画)
3.5
塚口サンサン劇場にて鑑賞。

『陽だまりの朝食』
 劇場で観たのはこの話を観るため。なんと塚口サンサン劇場では、来場者特典として「汁ビーフン」がもらえる! 粋な計らいだ。
 物語も、わざわざビーフンを配るだけあって食欲をそそられる内容。成長と共に変わっていった行きつけのビーフン屋の話を中心に、男の人生が語られる。中国では「焼きビーフン」より「汁ビーフン」が一般的に食されるようだ。油でカラッと揚げた目玉焼きがとっても美味そう! 同じ湯切りの描写でも、故郷の専門店と大都会のチェーン店とではまるで印象が異なる。湯切り一つで味の良し悪しを描き分けたのは驚いた。

『小さなファッションショー』
 理想の姉であろうとするあまり失敗してしまうモデルのお姉ちゃんの話。あまり中国色を感じない話だなと思ったら、監督は日本の方だった。
 新人に立場を奪われる焦りの中で挑んだファッションショーでは、モノクロの地味な衣装。自身を取り戻してからは情熱的な濃い赤のドレスといったように、自身の感情を表して衣装の色が変化しているのには、『パンチドランク・ラブ』(2002)を思い出した。

『上海恋』
 作品パンフレットがカセットテープの形を模しているのは、今回の話が由来。カセットを使った文通?が懐かしさを感じさせる。
 劇中で登場する中国語の表記には全て説明が無かったのでわからなかったが、小雨(シャオユ)が自身の名「小雨」と書かれた交換日記用カセットテープに対して「転晴」の字を書き足して「小雨転晴(良いことがあるよ)」と励ましの意味に変えたのは、お洒落な言い回しだと膝を打った。
 3本の中では最も素晴らしい作品。ポスト『君の名は。』と呼ぶに相応しい甘酸っぱい爆発力があった。幕引きの仕方も一番綺麗で心地良い。

 全体的にはどれも良かった。と言うか3作すべて感動で泣いた。素晴らしすぎる。優しい絵のタッチ、短時間に上手くまとめられた脚本、どこを取っても丁寧に作られている。
 ただ、だからこそ、終章の空港での場面には大変不満がある。なんであんな話を付け加えた⁉ 綺麗にまとまった物語をほじくり返してほしくなかった。特に『上海恋』! 『上海恋』の後日譚なんて観たくなかった……。終わり悪けりゃ涙も乾く。惜しいことをしたものだ。
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