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ジョン・マカフィー: 危険な大物のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.9
ジョン・マカフィーはアンチウイルスソフトの「マカフィー」の創業者。IT長者となった彼は、会社を売却してコロラドでヨガのインストラクターに。その後、中央アメリカのベリーズに移り住み、そこで殺人容疑に問われる。隣国グアテマラに逃げのびたが逮捕され、アメリカに強制送還された。意に反して帰国してからも、アメリカ大統領選に立候補したりして、かなりのお騒がせの人物だ。そのジョン・マカフィーのドキュメンタリーをつくるべく、彼に取材交渉していたのが、この作品の監督、ラネット・バースタインだ。

彼女の名前は、ハリウッドの大物プロデューサーで、ロバート・エバンスの自伝映画「くだばれ! ハリウッド」 (2002年)の共同監督としてクレジットされていたので、なるほどと納得。ロバート・エバンスと似たようなキナ臭い感じが、このジョン・マカフィーにもある。作品では、そのラネットが、ジョン・マカフィーにインタビューを申し込むところから収められ、関係者へのインタビューやマカフィーが「酒池肉林」の暮らしを送っていたベリーズなどにまでカメラは追う。かなり対象に密着したドキュメンタリー作品だ。

スキャダルにまみれた人物が対象だけに、その距離の取り方は微妙なのだが、やはりここまで迫ると面白い。とくに、ジョン・マカフィーの資金で、ベリーズの同じ敷地内でバイオの研究をしていた女性の証言などは、迫真に満ちたものであり、対象人物の闇をあぶりだす興味深い映像ともなっている。ベリーズでは「地獄の黙示録」のカーツ大佐にならんとしたジョン・マカフィー。彼が「闇の奥」の王国を築こうとした場所にまでカメラは入り込む。

ハリウッドのスキャンダラスな大物プロデューサー、ロバート・エバンスを取り上げた「くたばれ! ハリウッド」と同じく、一度はブームに乗った人物のその後を追うかたちは、きっと監督のラネット・バースタインの嗜好だと思われるが、建物や風景にこだわる様式は、この女性監督なりの流儀かもしれない。

とにかく対象人物の破天荒な面白さもあるが、それに迫るラネット・バースタインのドキュメンタリー魂もこの作品の見どころだ。ラネットには「American Teen/アメリカン・ティーン」(2008年)や「遠距離恋愛 彼女の決断」(2010年) などの劇映画作品もあるが、次にドキュメンタリーでどんな人物にフォーカスを当てるのか、楽しみでもある。
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