しの

ペンギン・ハイウェイのしののレビュー・感想・評価

ペンギン・ハイウェイ(2018年製作の映画)
3.9
夏休みの自由研究を映画にしたような作品。誰もが共通体験として持つ幼い頃の好奇心や知識欲、背伸びの感覚が「SF=すこしふしぎ」な世界の扉を開いてゆく。人生は死への一本道ではなく、驚きと楽しさに満ちた「ペンギン・ハイウェイ」なのだ。人生と命の肯定力にド感動。

SFも森見先生にかかれば超ヘンテコかつ超真摯な人生賛歌へと料理される。少年たちが謎に直面し、それを解き明かそうとする様は、人が大人になって世界を知っていく過程そのものだ。それは死に向かうことでもあるのだが、圧倒的なアニメーションの楽しさがその悲観をねじ伏せる。

本作が偉いのは、子どもが持つ世界への純粋な興味を、嘘偽りなく本気で「ワクワクするもの」「尊いもの」として描いている点だ。「子どものすることなんて〜」などと言う大人はおらず、誰もが子どもをリスペクトしている。子どもと大人の連続性がしっかり描かれているのだ。

繰り返される「果てのないループ」のモチーフが肝。例えば「世界の果て」は、世界に果てがないことを逆説的に示している。それが、母なる海から生命が生まれ、また次の生命を生み出すという大いなるサイクルに繋がる。生きることの強烈な肯定だ。

SF要素はヘンテコだが、楽しく雄弁なアニメーションによって現実と地続きであると実感できる。ペンギン達もお姉さんも確かに存在すると、この作品は信じているのだ。だからこそ、我々は人生を「死への道」ではなく、「ペンギン・ハイウェイ」として認識できる。

正直、丁寧すぎて長く感じたし、話自体は想定内の内容だったし、サブキャラがクライマックスでどうしても脇に追いやられるセカイ系的な宿命も感じたりしたのだが、森見作品に共通する「すこしふしぎ感」や「肯定力」をアニメの力でしっかり映像化できていたのは確かだと思う。


本作の「謎」の正体について(※リンク先ネタバレあり)
https://fse.tw/DRpN1#all

ラストに映されたアレについて(※リンク先ネタバレあり)
https://fse.tw/dxCoS#all
しの

しの