海老

ペンギン・ハイウェイの海老のレビュー・感想・評価

ペンギン・ハイウェイ(2018年製作の映画)
3.8
夏休み子ども科学電話相談というラジオ番組がある。小学校の夏休み期間中に放送される番組で、子供の、無垢で可愛くそれでいて少し可笑しい質問が、この時期の風物詩となっている。

その番組で、ごく最近に話題となった質問が

「世界は朝から始まったの?」

子供の純粋な疑問は、時々とても美しく、時々とても鋭くて、時々とても心を打たれる。

あの頃は色んなことが不思議で、色んなことが知りたかった。何故?と知りたがる気持ちが薄れたのはいつからなのか。自身の持つ物差しで測れるものが増えるほど、新しい引き出しに詰め込む楽しみから離れていく。成長には時折寂しさが付き纏う。

本作において、原作者の森見登美彦先生の描く幻想と理屈っぽさに溢れた愛しい世界の中で、アオヤマ君は色々な事象を研究して追いかける。
小学4年生。それは長い小学校生活の後半に差し掛かる、多感で、難しくて、背伸びをしたがるお年頃。色んな不思議を追いかけて、仮説を立てては色んな「何故」を明かしていく。
「僕は大人よりも色んなことを知っている」なんて、生意気な言葉を吐きながらクリームソーダを啜る彼の目には、きっと色々なことが新しくて魅力的に映っているのだろうと思う。

街中に突如として現れるペンギン。それは大人の僕らには余りに常識離れした荒唐無稽な空想の話。
けれどもアオヤマ君にとっては、お姉さんを見るときの正体不明の気持ちも、お姉さんとお母さんのおっぱいは何故違うのかも、川を上流に遡るとどこに通じるのかも、世界の果てはどこなのかも、どれもこれも、同列の「不思議」なんだろうと思う。
きっと、ペンギンだけが特別な不思議ではないんだろう。

この物語には謎が多い。
分からないことが多い。
分からないから知りたくて、
知りたいから追いかけたい。
10歳という、思春期の始まりと冒険心の残る微妙な年頃に、色々な不思議を追いかける姿は爽やかで眩しい。


子供には、いつまでも不思議を追いかける気持ちを大切にしてもらいたいと願う。彼らが歩いた軌跡が道となると願う。ペンギンの歩く道筋がそうであるように。
タイトルの「ペンギンハイウェイ」に、可愛らしくも逞しい歩みのイメージを重ねたりして。

世界が朝から始まったかは僕には分からないけれど、答えを与えるより大事なことも少なくない。色々な不思議を追うペンギン達の背中を、そっと押せるような大人でありたいと、そんな事を思わせてくれる。

そんな、爽やかで、浪漫に満ちた夏の一幕。
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