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希望の灯りのzoeのレビュー・感想・評価

希望の灯り(2018年製作の映画)
3.9
好きな空気感でした。何かは起きるけど起きた感じがしない。それによってストーリーの方向が変わるわけでもなく、全体の雰囲気が変わるわけでもない。現実味の強い作品でした。観賞後に解説を読んでより理解が深まり、素敵な作品だと心から思えました。

最初から最後まで、静けさと共にどこか寂しさと悲しさを帯びていた。でもそれと同時に人の温かさと優しさが伝わってくる。生きることの刹那さと尊さ、そういうことよりも単純に今を生き抜くことの難しさが見えた。毎日が同じことの繰り返し、昨日も今日もそんなに変わったことは起きなかったからきっと明日もそう。でも、そんな日常に突然変化が訪れてしまったら平凡な日々がどれだけ素晴らしいか、良いものか気づかされる。誰だってそういう平凡な日々を過ごしてる。

「どんな1日だった?」
「いい日だった」
「そっちは?」
「同じく」

このクリスティアンとバス運転手の会話がとても好き。夜が深まった時間、バスのなかには運転手と彼だけで、少し言葉を交わす。その一瞬がきっとすごく大切。

一緒に煙草を吸っていたあの短い時間、いい時代だったと話す彼の横顔、優しく励ましてくれたあの言葉、フォークリフトに飾られた小さなぬいぐるみも、全て拭えない短くも大切な記憶。彼の長距離トラックがなつかしいという一言に込められていた沢山の思いを、理解できるだろうか。

あの波音がまだ耳に残ってる。

『みんな居場所へ帰っていく まるで僕たちは翌日家に戻ってくるために 深い眠りにつくようだった』

1989年のベルリンの壁崩壊、翌年の東西ドイツ統一についてもドイツという国についても知っていることが少ないのでこれをきっかけにその出来事自体はもちろん、その時代背景についても勉強しようと思いました。
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