ずっと聞こえていた
ずっとそこにあった
私たちの希望の灯りが
2019 . 55 -『In den Gangen』
1989年ベルリンの壁崩壊後、旧東ドイツの大型スーパーマーケットでひっそりと働く時代に置き去りにされた人々に焦点を当てた映画
深夜の無機質なスーパーマーケットで
冷めた日常が淡々と流れていく
新人として働き始めた
前科持ちで無口な男クリスティアンは
不器用ながらも人間関係を築きながら
同じような毎日を過ごしていくのだった
盛り上がりのない静かな映像は
映画的でない人々の生活を写しだす
毎日が同じことの繰り返しで
人はお金のために死ぬまで働いて
生きる意味がないように思えてくる
でもこの映画から漂うのは無機質なものでない
柔らかい空気から滲む圧倒的な優しさだった
他人でしかない同僚にもそれぞれの人生があって
様々な人生を送ってきたからこそドラマが生まれる
だから相手を理解するのは難しく
相手の心の穴を埋めようとするのは危険な行為だ
代わり映えのしない毎日にうんざりして
色褪せていく日常の中で私たちは見失っている
日々の中で彩られる美しい瞬間を
何気ない会話に潜む優しさを
不器用な人間のぎこちない愛情を
物事や人に興味や意識を向けなかったら
日常は無機質へと変わってしまう
私たちにできるのはその瞬間を時の流れるままに
委ねるか自分でその瞬間を彩るかのどちらか
この映画の特別な構図と美しい音楽で退屈な日常を彩ったように人生は意識次第で変わる
そうすると聞こえてくる。見えてくる。
人生を祝福する希望の灯りが。