千月

希望の灯りの千月のネタバレレビュー・内容・結末

希望の灯り(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

人が明日も生きていこうと思えるには何が必要なのだろう。

毎朝の挨拶や、コーヒーブレイク。仲間とこっそり吸うタバコ。
好きな人と交わした言葉。
フォークリフトの運転が出来るようになったこと。それを喜んでくれる仲間。
1日の終わり、顔なじみのバスの運転手と交わす、「良い一日だった」。

ささやかな日常の中にある、大切なことを積み重ねて、そうやって灯りを灯しながら生きていく。
この映画で映し出されているのは、そういうものだと思う。


何でも買えそうな、巨大なスパーマーケット。
その在庫担当の新人、クリスティアンはタトゥーがある訳アリな人間。
ブルーノを始めとする職場の同僚は、無口な彼を疎外することなく一緒に働いている。
クリスティアンには気になる同僚女性(マリオン)もでき、日常は少しずつ進んでいく。

途中、ブルーノとの会話から、彼とその仲間が、東西ドイツ統一後、長距離トラックの運転手から、今の仕事に転職したことが分かる。運送の仕事を懐かしがるブルーノ。その時代、その場所を生きた人間にしか分からない感情がそこにある。

終盤、自分の家にクリスティアンを誘うブルーノ。その家の、灯りがほとんど無い、取り残されたような寂しさ。酒を酌み交わしながら、クリスティアンの訳アリ部分(少年時代、前科があること)を聞いても、静かに受け入れる。
そんな風に人に優しく出来るブルーノは、その後、自殺してしまう。あの寂しい家で、彼は、自分自身には優しく出来なかったんだ。そう思うと哀しい。

マリオンとクリスティアンの関係は、マリオンが既婚者(だけれど、夫と上手く行っていないらしい)ということもあって一筋縄ではいかない。それでも、廃棄対象のお菓子から作った誕生日ケーキ、ささやかなクリスマスパーティーと、ほのかに温かいエピソードが続く(クリスティアンがマリオンの家に無断で入り込むエピソードがあり、そこだけ私には消化不良だった)。

ラスト。マリオンはクリスティアンに、ブルーノから教わった、フォークリフトのアームを動かすと波の音か聞こえる、というのをやってみせる。一緒に働いていた、もう会えない人の思い出を、二人は共有し、また明日も生きていく。(休憩室の壁に描かれているのは、ヤシの木でリンクしている?)


地味な作品だと思うが、クラシックを始めとした劇伴もとても良い。
観た後、明日も生きていける灯りが、私にも灯った。そんな気がした。
千月

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