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空母いぶきのdm10foreverのレビュー・感想・評価

空母いぶき(2019年製作の映画)
3.9
【センソウとセントウ】

日本の漫画界で「ミリタリー×ポリティカルサスペンス」という一つのジャンルを確立したかわぐちかいじ原作の映画化。
以前「沈黙の艦隊」や「ジパング」などを読んだこともあったので、作風はある程度はインプット済み。とにかく「ディテールにこだわりの強い作家さんだな」という印象。

公開前から「三流役者事件」など話題にも事欠かなかった今作ですが、あの人はこの作品を観てから「三流役者発言」をしたんだろうか?恐らく観てないんだろうね。っていうかインタヴュー記事を読んだだけで噛み付いたんでしょ?大方の予想はつく。
ただの言葉狩りじゃん。個人的にはあの人の方が偏りすぎてて嫌い(笑)

・・それはさておき。
原作未読ですが、エンタメ娯楽大作としてはなかなか面白かったと思います。
未曾有(みぞうゆうって読んじゃダメだよ)の事態が起きたとき、日本はどうするのか?
そうそう「シン・ゴジラ」もちょっぴり似たようなプロットの作品でしたね。
あれはパニック映画のコーティングをしながらも政治的要素も強い「ポリティカルサスペンス」な一面も持っていましたが、今作も「政治的決断」が求められていることを考えれば似ているのかもしれません。
ただ、前作と決定的に違うのは「敵ではあっても相手は人間」というところなんですね。
漠然とした虚構のような存在ではなく、会って話をしたわけではないし理解しているわけでもないけど、確かなのは「人間である」ということ。
そしてそれは人道的に「殺してはいけない」対象であるということ。
この辺は、恐らく世界共通の理念ではありながら、その思想の強度は国や信じる宗教によっても価値観が分かれるところだとは思いますが・・・。

『国(日本)を護る』という事を実際に行動で示す場合、きっと見た人の数だけ考え方があるのかもしれないが、端的に立場を表していたのが主役の二人だろう。
艦長の秋津(西島秀俊)は航空自衛隊出身という異例な人事で「いずも」の艦長を任された人物。ここでいう「航空自衛隊出身=戦闘機乗り」は『一匹狼』的な意味合いを持っていて、編隊を組んで空中戦を戦っていても、結局瞬間的な判断、決断、そして責任は自分が負うという究極の状況の中で生きている戦士というイメージで描かれていた。
それに対して副艦長の新波(佐々木蔵之助)は海上自衛隊上がりの、いわゆる「出世コース」を歩んできた『海の男』。つまり同じ船に乗るものは一蓮托生であり、船がやられるという事は全員の死を意味する、言わば「戦闘機乗り」とは真逆の場所にいる。
そんな彼の上に立ったのが利己的とも取れるくらいに徹底的にドライな秋津だった。

防衛大学時代の同期でもある二人だが考え方はいつも対立する。最初のうちは群指令がいたから中和されていたけど、途中で群指令が負傷退場してからはどうなることやら・・。

映像的にも迫力があったし、途中に挟まれるコンビニエンスストアのシーンによって
「平和ボケした日本人」みたいな描き方とも取れるけど、本当はそこじゃなくて「みんなが平和を享受しているその間にも、ひょっとしたらこういうところでドデカイことが起きているのかもしれないよ」っていう事なのかなとも取れた。
ちょっと中井貴一のくだりは長いなとは思ったけど。
でも日本人が宗教に関係なく「ピースフル」になれる日って考えたら、やっぱりクリスマスなのかもしれないな~なんて考えながら、それじゃダイハードと同じオチじゃんと一人
ツッコミ。






~~ここから先はちょっとオチに係わる部分なのでご注意ください~~







・・、原作を読んでいない分、ここは何ともいえない部分ではあるんだけど、ラストはあれで正解なの?実際問題としてあんなことが起きたとしたら、そうなるんだろうけどさ。でもその解決方法って最初から「それしかないんじゃないの」って思ってたし、言ってしまえば散々放置された挙句に「それ以上やったらお仕置きだよ!」って突然ママに怒られたみたいな「強制シャットダウン」に近い力技感が拭えなかった。
そして輪を掛けて「?」だったのが、それをもって敵側があっさり武装解除してあっさり初島も放棄してあっさりいなくなっちゃったこと。確かに違法行為だからね、これ以上駄々をこねても勝ち目がないってことは分かるけどさ・・・。根性が足りんぜよ!って思った僕は酷ですか?

そんなこんなで、映画的には満足しつつも、あまりに綺麗な「想定の範囲内の着地」が逆に居心地の悪さをじてしまい、出来ればもうひと波乱を期待してしまいました。
まあリアルを追求するかわぐち漫画が原作だし、あまり突飛な設定は難しいか・・・。
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