せんきち

空母いぶきのせんきちのレビュー・感想・評価

空母いぶき(2019年製作の映画)
3.5

力作。日本にしか作れない戦争回避映画。


新興の東亜連合により初島が占領。続々と出現する東亜連合の戦闘機、潜水艦、駆逐艦。戦争を回避すべく戦闘に突入する自衛隊の苦闘を描く。



ネットで公開前から叩かれた本作。左からは右寄りだと、右からは佐藤浩市演じる総理が安倍総理を揶揄してると非難炎上。



原作では中国だったのを東亜連合という架空の国にして逃げたと批判もされた。実際に観て思ったのはこの改変は成功だ。中国だったら絶対成立しないオチをしてるからだ。理由は後述。




脚本はパトレイバー、平成ガメラの伊藤和典なのでマニアックな軍事描写とミッション遂行ものの展開が上手い。ただ、合間に入る新聞記者、コンビニ店の描写が非常にもっさりしておりスピーディな展開み水を差す。『シン・ゴジラ』は意図的にそういうのオミットしたが、本作は何故にそうしなかったのか。


本作は日本にとっての”戦争”とは何かを語る映画だからだ。


本作の主人公、いぶき艦長の西島秀俊と副長の佐々木蔵之介は作中で何度も対立する。


どんな手段を使っても戦争になる戦闘を回避すべきではないかという佐々木蔵之介と戦争を回避するための戦闘ならやむを得ないという西島秀俊。


戦後の左派と右派の戦争論をトレースした会話だ。


更にラスト。ぎりぎりのラインで”戦争”を回避した日本。佐藤浩市演じる総理が語る、自分達政治家の意義。

「結婚して子供が生まれて、家という生涯で一番高い買い物をして、子供が巣立ち、次第に病気も多くなっていく。そんな平凡な生活を守るために俺たちの仕事はあるんじゃないのか(大意)」


この激甘なオチを語るために一般人描写が必須だったのだ。オーバーラップするクリスマスイブを祝う国民の映像。勿論、中国だったらこのオチにならない。現実とリンクし過ぎてるので、このオチにたどり着かない。得体の知れない架空の国だからギリ成立するラスト。



この甘く懐かしい戦争、国家観は意図的にそうしたのだろう。戦争を煽る政治家、差別と扇動をするメディア、それを支持する国民。20世紀までは可視化されなかったクズみたいな本音が表にだだ漏れしている現在だからこそだ。


佐藤浩市、西島秀俊、佐々木蔵之介みたいな事を思って”戦後”を作ってきたんじゃねえのかよ、お前ら!と言われてる気がする。


物凄くナイーブでお花畑(嫌な言葉)だけど、よくやったと支持したい。だって戦後日本の自衛隊論争の流れ理解してないと、この映画理解不能よ。まさに日本でしか成立しない戦争映画。



ネットで批判された佐藤浩市が安倍総理を揶揄した演技してるってのは大嘘。つかネットで批判してる連中のほとんどが本作観てない。
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