QTaka

未来を乗り換えた男のQTakaのレビュー・感想・評価

未来を乗り換えた男(2018年製作の映画)
3.9
なんだろう?このざわざわする胸騒ぎは。
この嫌な感じの、落ち着かない感じの中で、物語は追い立てられるように進む。

現代のフランスに、ドイツ軍が侵攻してくる。
人々は逃れようと必死に道を探す。
.
時代に翻弄される主人公をその時代の雰囲気と共に堪能する物語である。
背景の設定がなんとも奇抜だが、容易に受け入れられる設定でも有る。
「現代フランスにドイツ軍が攻め入ってくる」と言うのだが、この状況は第二次世界大戦で実際に起こったことでも有る。
祖国を捨て、ファシズム政権に負われるドイツ人青年。
彼は、パリを経由して、船で逃れようとする。
その過程で、他人に成り済ます事になる。
一方で、その人(他人)の妻であった女も、ヨーロッパを出ようとしている。
ここで一つの『乗り換え』がある。
たどり着いたマルセイユには、不法滞在者があふれ返っていた。
この渾沌とした港町は、一見色鮮やかな南欧の雰囲気を湛えながら、迫り来る危険と恐怖の影を感じさせている。
かつての戦争における、ナチスドイツとユダヤ人の問題を現代の移民問題に重ねて見せているのだ。
それにしても、迫り来るナチスの侵攻の恐怖と現代フランスがこうもうまくマッチするものだろうか。
なにか、不思議な、我々の住む世界とは別の平行世界にでも迷い込んだような気がした。
.
監督の言に、「自分が撮りたいのは歴史映画ではないことに気がついた。」とある。
元々の構想では1940年のマルセイユが舞台であったが、制作過程で「過去を再構築する作業はしたくない。」ということに気がついたらしい。
現代の問題に向き合うと、おのずと答えは出てきたのだろう。
つまり、現代社会が抱えている問題を撮ろうということだろう。
〝ナショナリズムの台頭〟〝移民排斥問題〟〝EU崩壊〟
今のヨーロッパは、戦後組み上げてきた合意や枠組みをないがしろにし兼ねないところにきている。
そういう現実と向き合った結果がこの作品だと思う。
.
主演の二人は、とても難しい立場を演じていたと思う。
追われながら、隠れながら生きるというスリリングな場面。
そして、他人になりすまして生きるという、普通じゃない心情の表現。
さらに、スクリーンに影のように何度も登場する女性の姿は、特別に目を引く存在で無ければいけなかった。
主演女優パウラ・ベーアは、昨年の『婚約者の友人』(フランソワ・オゾン)で主役を演じていた。
その映画でも、二つの大戦の狭間で、時代に翻弄され、流されて行くヒロインの映画だった。
この二人の主役は、この時代を背景にして、ただただ生きようとするだけなのだが、その身は翻弄され続けるという微妙な役回りを演じていた。
その一筋縄では表現しきれない演技はとても良かった。
.
ドイツ軍の進攻は、歴史的な事実として起こったことだった。
フランスは、占領された。
移民が南ヨーロッパに押し寄せているのは現在進行形の事実だ。
つまり、この映画の物語は、決して起こり得ないことではない。
映画の始まりから、ざらざらした嫌な感じが流れるのは、現代フランスにこの物語があまりにフィットしているからだろう。
現代フランスを舞台に据えた監督のセンスに感服した。