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ウトヤ島、7月22日のlpのレビュー・感想・評価

ウトヤ島、7月22日(2018年製作の映画)
4.3
2018年のベルリン国際映画祭で、賛否両論(上映後に拍手と同時に一部でブーイングも起こったとか。)になりながらも、エキュメニカル審査員賞を受賞した、2011年にノルウェーで実際に起こったテロ事件を、事件に巻き込まれた少女の視点からワンカットで描くサスペンス。

スパイダーバースやイーストウッドの新作など、話題作が多数公開されるなか、個人的に最も気になっていたのが今作。
「テレビ」と「映画」の違いを決定付けられる要因の1つは、CMを挟む余地がない(現に先日金曜ロードショーで放送された『カメラを止めるな!』も、冒頭の37分はCM無しで放映された)「ワンカット」の手法にあると思ってる身には、「ワンカット」と聞いただけで「観たい!」と思ってしまうし、実際のテロ事件を描くとなると尚更気になるところ。さらに、奇しくも個人的に推してるポール・グリーングラス監督も、ウトヤ島での銃撃事件をテーマにした映画を撮ってる(Netflixで配信済)とあって、注目度は増すばかり。

そんな訳で、さっそく鑑賞してきましたが、これが予想以上に恐ろしい映画でした。
映画は前述の通り、2011年の7月22日にウトヤ島のサマーキャンプを1人の男が襲撃(銃乱射)した事件を、サマーキャンプに参加していたある少女の視点から、ワンカットで描く。こう書くと何か「物語」が存在するかのように聞こえますが、そこが違った。今作は国際情勢や政治について語っていた若者たちが、突如として銃声が鳴り止まない「生きるか、死ぬか」の環境に放り込まれ、その様子を「事象」として淡々と切り取る。「ワンカット」で主人公の視点を、カメラが徹底的に追い掛けるので、観客はサマーキャンプの参加者として事件を追体験する。そこに物語や映像表現的な面白味はほぼ存在せず、あるのは突然襲われるテロの「恐怖」と、逃げ惑う人々の姿のみ。
実際の事件は2011年に起きているので、当然ながら観客は事件の全容を知っている。だからこそ、まだ「映画」として安心して観ていられるけれど、犯人の人数やテロがいつまで続くかを知らない登場人物の視点に立つと、本当に身の毛がよだつほど恐ろしい事件だ。時に小さく、時に大きく鳴り響く銃声が、臨場感と緊張感を煽る。
映画冒頭、主人公の少女がカメラ目線で「分かりっこない」と言うけれど、まさにその通りなのだと思う。観客がいくら映画を通して事件を追体験しても、実際にもしもテロに巻き込まれ、自分自身の「死」を身近に感じたらどうなるのか、それは想像の領域では誰にも分からないことなのだろう。今作を撮るにあたって、多くの生存者の証言を集めたとのことだけど、そのプロセスを経て得られた監督なりの結論が、「分かりっこない」の一言に全て集約されているように感じた。

テロリストに襲われる恐怖を真っ正面から容赦なく描くと同時に、事件に巻き込まれた人々の様子を追体験させることで、「もしも自分だったら、どうするだろう?」と、観客に考えさせる。強烈に揺さぶられるヘビーな1本だけど、オススメ!
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