MasaichiYaguchi

コーヒーが冷めないうちにのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

コーヒーが冷めないうちに(2018年製作の映画)
3.7
「後悔先に立たず」と言うけれど、相手に言いたかったこと、伝えたかったことを人は時に逡巡して言えず、後になって悔やんでも悔やみきれない思いに駆られる。
もしあの時に戻れたら、そして思いを伝えられたらという願いを、この作品はコーヒーの香りと共にファンタジックに描き出していく。
本作と同様に、ファンタジー仕立てで言えなかった思いを伝えようとする人々を感動的に描いた作品に辻村深月さんの「ツナグ」があり、松坂桃李さん主演で平川雄一朗監督によって映画化され、2012年に公開されている。
本作は、劇団音速かたつむりの脚本家兼演出家の川口俊和さんが自らの戯曲をノベライズしたものを原作としているが、繰り広げられる数々のエピソードからは舞台劇の色合いが感じられる。
だから、喫茶店「フニクリフニクラ」という限られた場所が主舞台であり、望み通りの時間に戻るタイムスリップの条件やルールもハードルが高くなっている。
そのルールの中で、過去に戻って何をやっても現実は変わらないというのがあるにも拘わらず、何故人々は「フニクリフニクラ」を訪れてチャレンジするのか?
この作品を観ていると、たとえ結果が変わらなくても、悔やまれる過去や自分と向き合い、相手に本当の気持ちを伝えることで自分の心持ちが軽くなり、その後の歩みが変わっていくと思えてくる。
相手も自分も大切にしながら思いを伝える大切さが、コーヒーの温もりと共に心に余韻を残します。