MasaichiYaguchi

母さんがどんなに僕を嫌いでものMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

4.0
歌川たいじさんの同名コミックエッセイを太賀さんと吉田羊さん共演で映画化した本作は、深刻な社会問題化した児童虐待をモチーフに、愛憎相半ばするいびつな母子の人生の歩みを、無償の愛や熱い友情、そして母性に彩られながら心揺さぶるストーリーで描いていく。
児童虐待が起こる背景として、保護者側、子ども側、養育環境という3つのリスク要因が挙げられているが、本作の場合、保護者である光子の母としての未熟さやトラウマ、そして夫との不安定な関係からきているように思う。
この映画のもとになった原作者・歌川さんが幼少期から被った体験を慮ると筆舌に尽くし難い思いに駆られる。
ここまで酷い状況なら児童福祉法に基づき、虐待された本人か気付いた周りの者が児童相談所か福祉事務所に通報すべきだと思う。
だが本作では、このいびつな母子の関係を〝法〟によって正すのではなく、自らを見詰め直して変えていくことで糸口を見付けようとする。
この〝糸口〟を、虐げられた人生を送って独り膝を抱える主人公タイジに与える人々が本作には登場する。
少年時代においては「婆ちゃん」、そして社会人になってからは会社の同僚のカナとその彼氏・大将、更に毒舌で物事の核心を突く劇団仲間・キミツ。
限られたキャストでストーリーが展開し、ともすれば重く暗くなりがちな本作だが、人生に挫けそうになるタイジを叱咤激励し、時に救いの手を差し伸べる彼らの存在が、胸に温かいものを込み上げさせる。
彼らを演じる、大ベテランの木野花さん、秋月三佳さん、白石隼也さん、そして森崎ウィンさん、夫々の魅力がアンサンブルとなって作品に潤いを与える。
そして映画を支える2人、太賀さんにとって本作は代表作の一つになると思うし、このところ母親役が続く吉田羊さんにおいてもエポックメイキングな作品だと思う。
「血は水よりも濃い」というが、この映画を観ると馴れ合いだけの関係では決して絆は築けないと痛感する。