今泉監督作品ということで、去年、FODの余っていたポイントで鑑賞。
[あらすじ]
街頭の大型テレビが写し出すボクシングの試合と、ストリートミュージシャンが演奏するギターの音色……。何気ない出会いを果たした男女と、彼らの周囲を取り巻く人々の10年間をまたぐ物語。
[感想]
監督・今泉力哉×脚本・伊坂幸太郎×主題歌・斉藤和義×出演・三浦春馬&多部未華子コンビという、個人的には最高過ぎる布陣で、かなり期待値が上がっていたものの、それを裏切らなかった群像劇ヒューマンドラマの秀作。
大したことが起こる作品ではなく、全体的に、かなり落ち着いた作風なので、万人に高く評価されにくいのも分かるけれど、個人的には、監督作で1,2を争うほど好きな一作だった。
それゆえ、本編を観た数日後、例の訃報を聞いたときは、とめどない喪失感に襲われたけれど……。
[今泉力哉×伊坂幸太郎の奇跡のコンビ]
恋愛映画の名手であり、オフビートな笑いにも定評がある今泉力哉監督と、散りばめられた伏線を見事に回収する群像劇小説で有名な小説家・伊坂幸太郎さん。
一見、接点が見えづらく、どんな作品になるのか、全く予想がつかなかった本作だが、蓋を開けてみると、思わぬハマり具合で驚いた。
それもそのはず、監督のインタビューや過去のフィルモグラフィを追っていくと、初期の作品*は、タランティーノを参考にした群像劇や、″凝った″構造の作品が多く、今回は、そんなスタイルへ原点回帰していることが分かる。
*『最低』『nico』『サッドティー』など。
監督は、過去の映画祭での作品講評で、「構成は凝っているけれど、人間が描けていない」と言われたことで、徐々に、その傾向を薄れさせるようになったそうだが、本作では、その部分を見事に両立させていたように思った。
また、本作では、物語の中心に「愛」というテーマがあるので、近年の恋愛映画の旗手としての特色が発揮できている部分も良かった。
[『君に届け』コンビの再来]
青春恋愛映画に距離を置いていた自分を沼へと引きずり込んだ、高校時代のバイブル、映画版『君に届け』。
その主演コンビである二人が再共演していたのも、僕にとっては、かなり嬉しいポイントだった。
両作ともに、表面的なラブストーリーではなく、他者を思いやる心としてのラブストーリーを描いているのが、特に魅力的で、それらに説得力をもたらしているのは、間違いなく、主演コンビの空気感だと思う。
欲を言えば、もっともっと、この二人の共演している作品が観ていたかったのも事実ではあるが、『君に届け』と本作は、自分にとって、これからも大切にしていきたい作品のひとつになった。
[終わりに]
小粒で地味とも言える内容ゆえ、過去の伊坂幸太郎原作群像劇『フュッシュストーリー』などの盛り上がりを期待してしまうと、若干、肩透かしを喰らうかもしれない本作。
しかし、そこにも通ずるクライマックスへの話運びや、今泉監督作との絶妙なコラボレーションを考えると、十分、楽しめたし、別の場所にいる二人が繋がるカットなども含め、誰しもが人と人との関わりで生きていることを改めて意識させられる内容でもあった。
人生の方向性に迷い、過去を振り返りたくなった時、ふと、そばに置いておきたい優しい人間ドラマだった。
参考
トークセミナー「恋愛群像劇の名手、今泉力哉監督が描き出す 正解のない恋の形“」 - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=8GlmcENwk38&t=3415s
(51分ぐらいから、作品の構成から人物描写を重視するようになった話。)
今泉力哉監督 | CINEMA DISCOVERIES
https://cinemadiscoveries.co.jp/set/11
(タランティーノに影響を受けた話。)