RAY

アイネクライネナハトムジークのRAYのレビュー・感想・評価

3.9
“こころのこと”


今泉力哉監督作品。
やはり、今泉監督は心の深いところを描くのが巧いと思う。
さらっと。
でも、じわっと伝わってくる様な。
今作は特にそんな感じがした。
そのじわっと伝わってきた何かは、まだしばらく僕の中に残っていて、あたたかい様な、だけどモヤモヤもする様な、何とも言えない感情が渦巻いている。
少なくとも言えるのは、僕はいま渦巻くこの感情になんとなく人生を感じているし、人間を感じていると言うことです。
映画のストーリーとしてももちろん面白い。
だけど、それ以上のことを感じさせてしまう、今泉力哉監督の凄さなのだと思います。

ところで、『アイネクライネナハトムジーク』ってなぁにって思われる方も多いのではないかと思うのですが、これはモーツァルトの楽曲からきているタイトルで、ドイツ語で『小さな夜の曲』を意味しているそうです。
このドイツ語は女性名詞なのですが、この映画が女性讃歌的に感じられたのも素敵でしたし、伊坂幸太郎さんの物語の作りかた自体がやっぱり素敵だとあらためて感じました。

人のあたたかさを感じることが出来る作品だと思います。


色々書きましたが、この作品を観たいちばんの理由は、三浦春馬さんの死です。
たくさんの方がショックを受けられた様に、僕もその一人です。
普段通り、なんとなくネットニュースを開くと、トップニュースで彼の死を伝えていました。
彼の名前が目に入った瞬間に頭が真っ白になる程、僕にはとてもショッキングなことでした。

三浦春馬さんが好きな俳優さんだったからと言うのもショックを受けた理由ではあるのですが、いちばんはつい最近まで彼の元気な姿を(メディアで)目にしていたし、ドラマも控えていることを知っていたからです。
そして、こんなことをこのレビューに書くのも違うかもしれませんが、僕は何回も「死にたい」と思ったことがあるし、つい最近までそう思っていたので余計にショックだったのです。

この映画にはとても大切な台詞が出てきます。


「あれっきりすっぱり縁が切れたと思ってたから、電話でもなんでも、まだ繋がってたのが嬉しいよ」


このレビューを書いているのは、もちろん僕が死ななかったからなのですが、この台詞は僕が死ななかった理由にも繋がっています。
それは、誰かがいてくれることです。
自分がどれだけ「必要ない」と感じても、「必要だ」と言ってくれる人がいる。
どれだけ「意味がない」と感じても、意味を与えてくれる人がいる。
知らないうちに自分が誰かの意味になっていることだってある。
時々、「死にたいって思ううちは死なないから大丈夫だよ」と言う人もいるけれど、それは多分、「(死にたいと思えば誰かに相談するだろうから)誰かに相談すれば自分の価値に気付く」と言うことだろうなと言う意味で、その言葉を半分信じていただけに、やはり彼の突然の訃報はショックだったのです。

もちろん、「死にたい」等と簡単に口にするものではないし、ましてや自分が「死にたい」と思った過去をこんなところに書いて、かまってちゃんだと思われるかもしれません。
だけど、彼の死や、自分が悩んで気付いたことを伝えたいと思いました。

僕は出来ればなんでもスマートにこなして見せては格好良くも見られたいと思うし(実際には出来てない)、なんだったら、誰にも嫌われたくないと常に思っています。
だけど、頑張り続けるのはやっぱり心がしんどくなります。
普段だったら、その「しんどい」さえも口にしないけれど、一言、たった一言それを誰かに伝えるだけで本当に心が楽になることがあるのです。
だから、かまってちゃんでも良いんだよ。自分の弱い部分を見せることは、決して弱いことじゃないんだよと、もしも今辛い人がいるのなら伝えたいと思うのです。

福山雅治さんは彼の死について、「彼の生きた証を、今まで以上に愛して下さい」と呼びかけられたそうです。
僕もそう思います。
残された僕等がすべきことは、彼の死因を明らかにする事ではなく、彼の作品から、彼の死から感じた“生”を大切にすることなのだと思います。


今作もきっと大切な事を教えてくれると思います。


三浦春馬さん、ありがとうございました。


観て良かった。
RAY

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