almosteveryday

家へ帰ろうのalmosteverydayのレビュー・感想・評価

家へ帰ろう(2017年製作の映画)
4.5
予告編を観て「これはきっと良作に違いない」と確信に近い予感を抱き、以後一切の事前情報を断ってこの日を迎えました。予感はやはり正しかった。素晴らしい。

住み慣れた家を娘たちに売られ、不自由な右脚の切断を迫られたうえ老人ホーム送りを目前に控えた元仕立て屋の老人、アブラハム。とある約束を果たすべくアルゼンチンから遠く離れた故郷ポーランドへ家出同然の旅に出るも、命の恩人とは70年間音信不通。果たして再会は叶うのか…?というお話。戦前のダンスホールでの生演奏が次第にテンポを上げて熱を帯びていくさま、iPhone6を欲しがる孫娘との丁々発止のやりとりを対比させるオープニングからぐいぐい物語に引き込まれました。

かくして御歳88歳の珍道中が幕を開けるわけですが、脚本がいいのか演出がいいのか編集がいいのかあるいはその全部なのかわたしには判断がつかないけれど、フックも展開もいちいち絶妙なんですね。台詞も映像も描写も決して多くを語らないのに説明不足感がなく、事の成り行きのひとつひとつが腑に落ちて、かつ細部の解釈を観客に委ねる遊びの幅も過不足なく与えられているというか。

何を書いてもネタバレになりそうなのでこれ以上は控えますが、こういう映画が好きだなあもっと観たいなあ…とじんわりいい気持ちに満たされた次第であります。あまりに良くて終映後にパンフレットを買い求めたのですが、林家木久扇師匠にコメントを求める配給の人選の妙まで含めて完璧。小遊三師匠でも好楽師匠でも圓楽師匠でもなく木久扇師匠、というセレクトにしびれました。じっくり読み込んでどっぷり余韻に浸ろうと思います。
almosteveryday

almosteveryday