ブタブタ

飢えた侵略者のブタブタのレビュー・感想・評価

飢えた侵略者(2017年製作の映画)
4.5
「空想科学、SFだ」
主人公と「ビックリおじさん(アホでイラッと来る、かついいキャラだ)」との会話の中にさりげなく出てくるこの台詞は本作の暗喩なのでは。

ゾンビ映画と言うよりもSF映画だと思います。
それもニューウェーブSF。
と同時に50~60年代の古い地球侵略モノのSF映画の趣きも。

映画化もされた『アイアムアヒーロー』の後半、ゾンビ・パンデミックの原因はウイルス型異星人の侵略によるものと解り(でも本当かどうかは解らない)ゾンビの群体としての意思やウイルス感染してもゾンビ化せず人の「リミッター」が外れ超人化した「狂巣・クルス」をネットワークの中継地点として合体巨大化したゾンビを使った地球侵略、人間をゾンビ化し意識をひとつに統合していくつかの巨大な「個体」に纏めそれを異星人が操り地球を支配する。
しかし結局『アイアムアヒーロー』はそれら全てには決着を付けず物語の中に度々現れた主人公・英雄の妄想や幻覚も全て投げっぱなしであくまでも英雄のパーソナルな物語として完結しました。

『飢えた侵略者』は『アイアムアヒーロー』に近いのと同時に、また別の「ゾンビ」を描いた作品でした。
そもそもあれはゾンビなのか?
当然噛まれると感染していくゾンビの基本は踏襲してますが、人に噛み付いて仲間を増やしつつ椅子を積み上げたオブジェを作ったり空を見上げたり行動は意味不明。
「蟻塚」や「蜂の巣」等群体として行動する昆虫が作る巨大建築物にもあの謎のオブジェは見えます。

『ウルトラセブン』のエピソード「侵略する死者たち」では宇宙人が死体の霊魂を操り“シャドウマン”として使役し地球侵略の尖兵とする。
しかしシャドウマンを操る宇宙人も最後まで姿を現さず、ウルトラマンが小さくされてコップに閉じ込められられたりシュールな映像と展開でなんだかその意味不明さ具合は本作にも通じます。

JGバラードの小説『破滅三部作』では世界を滅ぼすのは突然吹き始めた「風」だったり気温上昇や水面上昇や特に『結晶世界』では全ての人間含めた生物・物質が水晶化していく終末世界を描いていて、それは宇宙の彼方のアンドロメダ付近で発生した「反物質」のせいで「通常宇宙にある筈の“時間”のストックがなくなり始めているせい」で本来ある「生物が時間と共に成長し老いて死ぬ」と言うプロセスがちゃんと機能しなくなり、世界から「時間」がなくなったせいで生物が情報=ウイルス化(ウイルスは生物と情報の中間の存在で活動してない時は“死んでいる”様な状態)して水晶の様な結晶体に「活動してない情報だけの状態」になってしまう。

本作のゾンビ(?)達も宇宙から来た何らかの作用によって死=停止状態と仲間を増やす為に人間を襲う活動状態=増殖を繰り返す「ウイルス」そのものになってしまったのでは。

ジョージ・A・ロメロ『ゾンビ』の日本テレビ放送版に何故か足された追加シーン「彗星の爆発により特殊な放射線が降り注ぎ死者が蘇り始めた」もゾンビ発生原因を宇宙へ求めたSF的解釈ですが、冒頭のレーサーが再び現れ少女が「宇宙飛行士なの?」と話し掛けるのも、ゾンビ(?)発生原因が宇宙から来てる事の之また何かの暗喩なのか。

ゾンビ映画としては評判が余りよくない本作、でもこれはSFそれもニューウェーブ、シュルレアリスムSF作品だと思いました。

でもゾンビ映画としても本編では押さえられていたアクションもクライマックスでは「鉈切り丸」ばりの鉈無双や噴水の様な血飛沫などスプラッター描写もかなり気合い入ってたと思います。
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