カツマ

ライトハウスのカツマのレビュー・感想・評価

ライトハウス(2019年製作の映画)
4.7
狂気に呑み込まれる。男二人だけで、陸地から遠く離れた孤島で、鳥たちが不穏に泣き叫ぶ場所で、意識は無の奥地へと放り込まれる。灯台の光のように、男の脳裏は回転し、ごちゃ混ぜになり、そして、モノクロの渦中に沈む。ひたすらに不気味、ひたすらに邪悪、叩きつけるたびに血が滲む。もう元には戻れないのか、眼前は白に包まれ、黒に染まる。

『ザ・ウィッチ』で長編映画監督デビューを果たした奇才、ロバート・エガース。長編二作目となる本作も『ザ・ウィッチ』と同じくA24スタジオ製作、更には兄弟のマックス・エガースとの共同で脚本を作り上げ、孤島を舞台にした異形のホラー映画を創造してみせた。灯台のある島に男が二人。そこで巻き起こった摩訶不思議な出来事とは?実際の灯台守の日誌などから着想を得たという、新時代の恐怖映画がついにそのヴェールを脱ぐ。

〜あらすじ〜

そこは灯台が聳える絶海の孤島。高波の打ち寄せるその島に男が二人、灯台守として勤務していた。そのうちの一人、初老の男は長年、灯台を守り続けてきたベテランで、もう一人は新しく赴任してきたばかりの新人だった。
孤島では常にサイレン音が巨大に明滅し、カモメたちが不気味に鳴いた。ベテランは新人を若造と呼んでコキ使う日々。新人はそれに対して軽い反発を覚えながらも、服従するしかない状態だった。更には灯台の光の番はベテランが独占、新人が灯台のてっぺんに登ることは許されなかった。
ベテランと新人の馬が合わない一つの要因として、酒の問題があった。ベテランは新人に酒を勧めるも、新人は禁酒の規則を遵守し、それを断固として拒み続けた。だが、そんなギチギチとしたわだかまりも、ようやく盃を交わすことによって次第に緩和していく、ように思えたのだが・・。

〜見どころと感想〜

今作は、ロバート・エガースによる映像作家としての拘りが炸裂しまくった異形のモノクロ映画である。スクリーンはほぼ正方形のアスペクト比(1.19:1の比率)でくり抜かれ、撮影はデジタルではなく、フィルムオンリー。撮影監督ジュアリン・ブラシュケとの共同作業により、ロバートはその構図に一切の妥協も許さぬ、細やかなギミックを大量に投下した。それは古き良きモノクロ映画の世界観だったり、かつての特撮映画のような雰囲気と酷似しており、実際、1930年前後の作品『大地の果て』や『炭坑』などを素材として使用。オマージュと手法はレトロでありながら、テクノロジーは最新、という完全にずば抜けた映像世界をここに確立した。

基本的にはロバート・パティンソン、ウィレム・デフォーの二人芝居である。双方ともに演技力には定評のある役者だと思うが、今作でのカオスは正に別次元。パティンソンは狂気を体現、デフォーは鬼のように横暴。二人の演技がバチバチとスパークし、破裂し、そして、霧散する。その火花がどこに向かうのか分からないまま、我々はその鬼気迫る演技の中へと取り込まれていくのである。

この映画は徹底した『恐怖』を描くことに長けている。『ザ・ウィッチ』でもそうだったが、ロバート・エガースという人は恐怖の映像化のセンスが極めて高い。例えば、ある者を岩場で発見したあのシーン。パティンソンの逃げ方の描写、そして、異形の者の叫び声が鼓膜と視覚から怖気立つほどの不気味さを誘発させ、ゾワゾワと冷気が這い上がってくる様を体感することとなる。

これぞ恐怖、悪夢のような得体の知れなさ。劇中が狂気の渦に沈むまで、この映画はいつまでも我々の瞳孔を掴んでは離さないのである。

〜あとがき〜

かなり長いこと待たされましたが、ようやく噂の話題作を劇場鑑賞できました。期待に違わぬ凄まじい作品。ホラーとしての純度がやたらと研ぎ澄まされていて、抜群に怖くて、それでいて映画として面白い。何が起こるのか、いや、何が起こっているのか、分からないことだらけなのに、いつの間にかその世界観へと没入させられてしまいました。

この映画がモノクロであった意味。白黒だからこそ、色彩感覚は鋭利になるし、カメラワークも劇画的かつドラマチック。懐古主義とオタク要素が合体していて、結果としてやたらと強烈な余韻を残してきます。是非この映画は映画館で。大衆的ではないですが、スクリーンで観ることをオススメしたい作品ですね。
カツマ

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