蛇らい

ライトハウスの蛇らいのレビュー・感想・評価

ライトハウス(2019年製作の映画)
3.7
ホラージャンルからロバート・エガースという天才がまた1人台頭してきた。前作、『ウィッチ』で鮮烈な心象を植え付け、映画史の新たな1ページを開いた。本作も引き続き舞台はニューイングランド。アメリカで最も歴史のある地域であり、この場所を舞台にすることで、劇中語られるすべての出来事が、現在とひと繋ぎになる。

『ウィッチ』同様、マーク・コーヴェンのスコアも素晴らしい。終始、鈍いモーター音のような不協和音が響き渡り、劇中の灯台周辺の環境音とのカオス状態が観客を不安にさせていた。

ロバート・エガースは恐怖という概念を、驚かせるなどの人間の反射的な苦手意識にもたれず、そこにあるひとつひとつの現象と対峙し、考えを巡らせば巡らすほど出口のない根底的な恐怖に落とし込む作家に感じる。その態度は極めて誠実であり、一過性の感覚に収まらず、生涯抱え続ける記憶などに由来する恐怖をつくりあげている。

本作は多重構造が魅力のひとつでもあるが、その中でも注目したのは、労働のホモソーシャルだ。舞台である灯台は男性器を表したシンボルで、劇中で起こる悲劇の要因をメタ的に示唆している。労働の中で起こりうる状況は、現代の労働の中でもかなり散見される。1人の人間がホモソーシャルにより値踏みされるフラストレーションは恐怖とも通底し、居心地の悪さを描き出す。現代の我々が劇中の状況ではなくとも、類似した状況に晒され続け、膿が溜まり続ける末路をも想起させる。

疲労しては飯を食い、酒に溺れ、また起きてという日々の繰り返し続ける憂鬱も閉鎖的な孤島というワンシチュエーションを上手く使い表現している。「終わりのない」というある種では希望的な願望の本質を捉え、「終わりのない」とはどれほど恐ろしく「出口のない」ということにも変換できうる絶望の一面も覗かせる。酔っ払うシーンの幾度となく挿入する辟易するしつこさも、意図的なのではないかと感じた。

トーキー映画を彷彿とさせる画面サイズ、寓話性、象徴的な設定は、我々人間の機微をブーストさせる。恐怖を糸口に炙り出される人間のおぞましさは、ホラーというジャンルの真骨頂とも言える。
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