mai

シシリアン・ゴースト・ストーリーのmaiのレビュー・感想・評価

4.1
誘拐事件の概要だけ調べて鑑賞しました。
もう2人の心情を思うだけで苦しすぎて…。

実際の誘拐事件がなんの救いもないように、この映画の少年ジュゼッペにもやはり救いはないです。
たしかに彼と彼女の真っ直ぐな愛は、2人を夢とも現実とも言いようのない異次元のような場所で引き合わせます。そして、彼は彼女を「死」から守る存在へと変わるわけです。死に間近い幽霊のような存在から、彼女だけの騎士へと昇華されます。そういう意味では、事件の被害者である少年への鎮魂歌としてこの映画が存在しているようにも思えるのですが、映画の結末としてはやはり救いのない悲しい物語です。

彼が辿る運命は事実ままですが、この映画には実在(していたかもしれないけど、多分)していない少女ルナが出てきます。彼女は元々が想像力豊かな女の子だったのですが、想い合っていたジュゼッペが居なくなってからは、その夢と現実の曖昧な境界を彷徨います。
観客側からみても初めは夢か現実か分からないのですが、最後にはそれが夢であると分かるのです。いるはずのないジュゼッペがゴーストのように彼女のそばにいるわけですから…。
印象的だったシーンは数あって、大事な場面こそ彼らには喋らせず雰囲気で観客に理解させる…という映画だったので、ジュゼッペの口に食べ物を当てるシーンや2人が惑う幻想の世界、ルナの頬に雫が垂れるシーン…どれも美しく儚いのですが、その中でもジュゼッペが手紙を一度ぐしゃぐしゃにして土に埋めるシーンが一番印象深かったです。
彼は最初の方から薄々自分が助からないことを悟っていました。父が自分となにかの交換を迫られていて、それに応じるか応じないかだけが彼の運命を決めるわけですから、助けがないということは応じなかった…親に見捨てられてしまったわけです。
そして、そんな絶望の中で読む、ルナからの心のこもった手紙…彼の心情を思いやるだけで、胸が痛みます。

とにかく救いのないストーリーをいかに美しく儚い世界観へと昇華できるかが、この映画の評価の分かれ目だと思うのですが、(演出過多の部分は多少あったけれど)自然の音や風景、サウンドトラックに至るまで丁寧に作られていて素敵な世界観でした。そして、場面転換の多さも良かったです。暗闇でふっとルナからジュゼッペ(または逆)へと飛ぶのですが、いつもはぶつ切り感があってあまり好きなやり方ではないものの、この映画には合ってると思いました。これは最後のシーンにつながってくるのですが、暗闇で一度夢から彼女を切り離してあげることで、辛うじて彼女が現実の世界を生きていることが伝わってくるような気がしました…ラストの展開に関しては、綺麗にまとめようとして失敗したような気もするのですが、そもそもが救いのない誘拐事件がテーマなので、こうするしかなかったのだろうなとも思います。伏線の蒔き方は下手くそ(匂わせがあからさますぎ)だけれど、彼女は自殺を図ることで、ジュゼッペと自分とを一旦終わらせたのだと思います。フクロウを逃して、ライトもチカチカさせたまま…彼女も本当は誰かに自分を救って欲しかったのだと思います。ジュゼッペが全てだった自分の中に空いた穴を、塞いでくれる誰かを。それが結局は友人だったのでしょうか。
正直、ロミジュリみたく悲恋の結末で終わらせるのも無しではないかな…と鑑賞後に思いましたが。だって、あまりにも唐突すぎます…あんなにも固執していたジュゼッペのために自死を図ったあと、すぐに振り切ったような表情の彼女になるわけですから。良かった!とは思うけれど、え?ともなりました。
もちろん、この映画が監督に衝撃を与えた誘拐事件に由来していて、その被害者となった少年に贈る映画であるわけですから、今回のようなバッドエンドではない結末が適しているわけですが…。

ストーリーとしては、実際の事件を基に丁寧に作り直してる印象で、雰囲気から何から良かったです。女の子の存在も全然違和感ないですし、夢と現実の行き来も幻想的でした。
ただ、若干の説明不足感はあって、青い樽に関しても、ジュゼッペの殺され方を知らなければ「ん?」となる筈です。それを知ってるか知らないかでは、湖に液を流すシーンの捉え方自体が変わってきます。確かに、登場人物は沈黙して、音だけがただただ流れるという演出は情緒的でこの映画にあってるけれど、ラストくらいは上手く分かりやすく表現すべきだと思いました。
キーポイントとして挙げる「水」が何故キーポイントになるのか…そこがわかるのがラストだからこそ、説明はやはり必要だと思いました。

キャストの子達(主にジュゼッペとルナ)が魅力的すぎて、彼ら彼女にこれからどんどんスポットライトが当たってほしいなと思いました。
ジュゼッペ役の子は演技が上手いのに加えて、ティモシー・シャロメのような危うげな美しさを持っていました。中性的な感じです。ルナに見せる、13歳らしい表情と、マフィアの息子らしく少し気を張った表情とが対照的でした。
ルナ役の子は強気な感じが素敵で、睨みつける目やジュゼッペを見つめる時の安心しきった顔が素敵でした。あと、映画に全く関係ないけれどスタイル良すぎ。喋らずにただじっと黙ってるシーンも多かったのですが、無表情でこんなにも感情を訴えられるって、本当に演技が上手なのだと思います。

幻想的で切なく苦しい映画になっていて、私は好き(実際の事件が基になってるので、その少年のことを思うとこの表現は不適切だけれど)でした。

ひとつだけ!この映画のポスターやそこに載る一言を考えた人、誰ですか?!笑
実際見てみると、予告編やポスターから想像していたようなふわふわした夢見がち物語では全然ないですし、なのに、あのフォントで「いつもそばにいるよ」「やっと、みつけた」って…雰囲気違いすぎて驚きです。しかもあんなにキラキラでパステルカラーなのに、本編は曇りがちで薄暗い森や湖に空で(監禁シーンがあるのでなおのこと)パステルカラーでもない世界観…宣伝と本編の不一致さにびっくりしました。