小松屋たから

ザ・プレイス 運命の交差点の小松屋たからのレビュー・感想・評価

3.7
元になったドラマがあることも知らなかったし、予告編から「笑ゥせぇるすまん」みたいな話かと思って観に行ったら、全然違った。きわめて宗教的、哲学的な映画だった(と思う)。神とは何か。願えば叶えてくれるアクティブな存在なのか。それとも、ただそこにいるだけで何もしないのが神で、人間に起こるすべてのできごとは、結局は個人個人が自分で判断した結果の集積なのか。「沈黙」にも繋がるテーマがあった。

あるカフェの同じ席に一日中座る一人の男が、次々現れる結構切実な望みを抱えた依頼人たちにかなり無茶な提案をする。それによって人々の行動や発言が変わっていく。ただし、映るのはカフェの内部と外観のみ。外の出来事は訪れる人の言葉や態度から知るしかない。そんな、対人会話に特化した、あえて「奇怪」と言ってもいいワンシチュエーションもの。ただ映像やロケーションはおしゃれ。

この設定だと、男が実はすべての案件を上手に関連付けることで揉めごとをどんどん解決しようとしていて、最後はパズルのようにぴったり事象や感情が重なって、「はい、ハッピーエンド!」というような展開にもできるだろうが、そんなエンタメを目指して作られた作品では無かった。幸せになる人もいれば、男の想定を越えて動いていって失敗してしまう人やいなくなってしまう人もいる。人間性剥き出しの対話が延々と続く。とにかく異色作。

人に試練を与える男自身が次第に憔悴していく様を見ていると、現代社会には「神」はもはや存在できないがゆえに、世界が不安定でアンコントロールな状態にどんどん向かっていることを示されているようで、暗い気持ちにもさせられる。

ただ、男は「人間たちの果てしない欲望に疲れ切った神」にも見えなかった。元々万能であったようでも無さそうだったから。では何者なのか。ウェイトレスは天使で、男は何か天界で失敗して自分も試練を与えられている堕天使、みたいなことなんだろうか。キリスト教に詳しい方のレビューを期待。

自分としては、ラストシーンは、男が未来に何か希望を見つけたという意味なのだと信じたい。

凄く面白いとも言い難いけれど、観るべき映画だったな、という気持ちになりました。