note

愛と銃弾のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

愛と銃弾(2017年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

南イタリアのナポリ。看護師のファティマは勤務先の病院である犯罪に巻き込まれてしまう。クールな殺し屋チーロは、目撃者のファティマを殺そうとするが、かつて若き日に愛し合った恋人同士だと気づいた2人の恋は激しく燃え上がる。ファティマを守るため、チーロは裏社会から逃れることを決心するが…。

ノワール調のクライムストーリーを軸に、ミュージカル、ロマンス、アクションなどさまざまな要素が盛り込まれた異色作。
ハマるとなかなか面白い珍品である。

水産市場を仕切る「魚王」と呼ばれるマフィアのボス、ヴィンチェンツォが、命を狙われる暮らしに疲れ果て、狡猾な夫人マリアの提案で、瓜二つの男を殺して死の偽装を企てる。
マフィアの本家、イタリア映画なので血生臭い抗争劇が始まるのか?かと思いきや、いきなり棺桶の死人が唄い出すので「なんじゃこりゃ?」と呆気に取られる。
ボスに雇われている殺し屋チーロが、ボスの偽装死を知ったファティマと出会うことから物語が動き出す。

イタリアなので陽気さは文化なのだろう。
一応マフィアものとして、殺るか殺られるかのシリアスさもあるのだが、キャラクター設定がぶっ飛んでいる上、唐突にミュージカルになるので、「一体、何をしたいのか?」と戸惑いながら付き合う羽目になる。
アクションやハードボイルドが好きな方なら、「ふざけてるのか?」と怒り出すかもしれない。
序盤はまるっきりコメディなのである。

しかし、見て行くうちにクセになる。
普通ハードボイルドなクライムストーリーとくれば、多くを語らず、行動(アクション)で心情を表現するのが定石。
しかし、本作では殺しの決意も迷いもロマンスのトキメキも、そのキャラクターの心情を全て歌が表現する。
元々、言葉で語る必要がなかったジャンルに「人物たちはこういうことを考えているんですよ」と丁寧に補完する演出は新鮮だ。
まるでQ.タランティーノ監督作品での無駄に見える人物の会話に似て、次第に次はいつ歌い出すのか?どんなことを歌に乗せて語るのか?と、楽しみになってくる。

ボスは小柄でちょび髭、貧相なヒットラーのような面構え、妻のマリアに尻に敷かれており、どこか頼りない。
チーロも殺しに関しては有能だが、血を嫌うファティマに殺しを邪魔され、振り回される。
カカア天下のお国柄のせいか、男たちは添え物で、前半はマリア、後半はファティマが仕切る女性上位の映画となっている。
ハリウッド製のマッチョイズムな映画への皮肉にも見える。

チーロとファティマがマフィアから解放されて自由を得るには、ボスをチーロが殺すしかないと思いきや、警察やマスコミにボスの偽装死をバラして、塀の中へ送ると同時に、今度はチーロの死の偽装をして、まんまと逃げる結末が見事。

チーロの殺し屋仲間に追い詰められるフリをして、血糊やら、逃亡資金やら、コツコツ準備した仕掛けと伏線回収が鮮やか。
マリアは部類の映画好きで、名作の引用をする辺り、監督もハリウッド映画を良く勉強している。

結論、なんでもありのクセの強い映画だが、これにノレるかどうかは見る人次第。
長くてクドイのは、インド映画に似た感覚を覚える。
残念なのは、歌唱力にせよ、アクションにせよ、オオッと驚くほど、突き抜けたモノがないこと。

騙されたと思って食べてみろと言われて、初めて食べたら意外とイケる、そんな感触の作品である。
note

note