バナバナ

教誨師のバナバナのレビュー・感想・評価

教誨師(2018年製作の映画)
3.5
大杉漣さんがプロテスタントの牧師・佐伯役で、6人の死刑囚を担当する教誨師を演じている。

死刑囚が刑務所ではなく、拘置所の独居房で囚人服を着ずに生活していると初めて知った。
日本で死刑囚というからには、みんな再犯だったり、一人だけではなく何人も殺している筈だ。
この6人の死刑囚の中には、今裁判中の事件や、昔世間を騒がせた事件を思い起こさせる人物も数人いる。
きっと、独居房なのは内省させる為だとは思うが、ほとんどの死刑囚は自己中なので、普通の刑務所で作業や集団生活を送らせながら、死刑の日まで過ごした方が罰になるのではないか、と思った人物もいた。

私が特にゾッとしたのは、古舘さん演じるストーカーらしき男、鈴木。
彼は死刑が執行されたら、あの世で被害者女性と結婚するという。
そして妄想の中で、自分が殺した女性の家族たちも自分に謝ってくれたから、俺は彼らを許すのだと宣う。
こんな奴、死刑でいいんじゃない。さっさと死刑にしなよ!と思ってしまった。

死刑囚たちは独居房の中に長年居ても、自分の罪と向き合っている人間は少ない。
自分の辛かったことにだけに心を捕らわれていたり、
心を開いて話してくれているのかと思ったら、実は打算があったり、
自分をどれだけ上に揚げてんだと言いたくなる偏屈な者も居たりと、
自分の犯した過去を悔やんでいる者はほぼいない。

最初、サイコパスな死刑囚・高宮と接見するのは本当は苦手だった佐伯。
しかし、他の死刑囚たちとも話すうちに、自身の過去とも向き合い、牧師として説教するよりも、自分はただ死刑囚の穴を見つめるだけの人間である、という境地に達するまでを見せている。

原作は未読だが、教誨師をされている仏教のお坊さんのノンフィクションらしいのだが、映画の方は教誨師という設定だけで、完全オリジナルの脚本だと思われる。
だって、この作品を観たら、私は余計に死刑に反対する気がなくなってしまったから。
私には、他人の心の孔を見つめる、なんて無理だと悟りました。
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