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エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へのsatoshiのレビュー・感想・評価

4.5
※感想書き直しました。


 何でもアメリカの前大統領、バラク・オバマが2018年のベストに選んだという本作。私はオバマは別にいいのですが、本作の高い評判は前から入ってきていまして。雰囲気的に同じような感じの『レディ・バード』も素晴らしかったので楽しめるんじゃないかと思い、鑑賞しました。

 結果、娘どころか結婚すらしていないのに大泣きしました。『レディ・バード』は本作と同じく思春期の女子の話でした。違う点は、『レディ・バード』が母親との話だったのに対し、本作は父親との話であることです。本作のMVPは間違いなくこの親父。本作は「父と娘の物語」として、本当に素晴らしいのです。本作の監督は男性とのことなので、この違いは監督の性別から来ているのではないのかなと思います。なので、『レディ・バード』とセットで観れば、両親の気持ちが分かるかもしれないです。

 エイス・グレードとは、中等教育最後の学年。日本で言えば、中3です。本作は、見た目が地味で、「イケてない」女子中学生ケイラが、そんな自分を変えようと奮闘する姿を描きます。

 まずこのケイラが素晴らしいんです。「イケてない」という設定ですが、本当にそう。体系はややぽっちゃり気味だし、口下手だし、趣味もマイナーなもの。彼女が精一杯背伸びをしている姿は実に微笑ましく、そして同時に痛々しい。頑張ってイケている奴らのパーティに参加してみても馴染めなくてぼっちになるし、1歩踏み出してみても周囲からは奇異の目で見られる。そのくせ周囲の視線を気にして父親からの厚意を「ウザい」として邪険に扱ってしまう。そして上手くいかなくて自己嫌悪に陥る。イケてない奴の典型的な無限ループです。

 そんな自己評価が極端に低い奴がどこに活路を見出すのかと言えば、現代はSNSなんですね。ケイラはずーっとスマホ見てて親と目を合わせません。まるで、そこでの評価こそが大切と言わんばかりに。さらに彼女はYoutuber活動を始め、自分の理想の存在を演じます。自分が「出来たらいいな」と思っていることを動画を使って、視聴者にアドバイスするのです。

 しかし、いくらSNSに動画をアップしたからって、自分自身が変わるわけではない。ケイラは常に何か「自分を変えてくれるもの」を求めています。それが「卒業」であり、中盤のハイスクールの生徒なのです。ハイスクールの生徒と言えば、ミドルスクールの身分から見れば十分大人ですよ。でも、そこでも少し怖い思いをしただけで自分は何も変わらなかった。

 自己評価が低い奴がここまで自己嫌悪に陥ると、もはや好意すら素直に受け取れなくなる。父親の愛情だって「自分の娘だから贔屓しているんでしょ」と思ってしまう。しかしそこで、SNS上の「いいね」とかではなく、実際の人間から本当に愛されていたと自覚できれば、本当の意味で自己を肯定することができるんです。あの親父との会話のシーンは号泣ものでした。

 また、本作は「親目線」の話でもあります。自分とは全く違う環境に生きている子どもに対して、親はどのように接し、向き合うべきなのか。この点も実に上手く描かれています。

 今の自分は、昔に思い描いた自分とは程遠いかもしれない。でも、いまそうやって頑張って獲得した自分らしさこそが、最高にクールなんだよと、本作は言っていると思います。思春期の子どもの、自己肯定の獲得までをしっかりと描いた素晴らしい作品でした。
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