まりぃくりすてぃ

フェイ・グリムのまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

フェイ・グリム(2006年製作の映画)
1.8
「フェイ」「……フェイ」と何度も“彼女”の名が発される冒頭。前作で垢抜けない若女子だったパーカー・ポージーが、非の打ちどころのない美貌のオトナ女子として映り込んでる。
ノーベル文学賞なんていう跳ねすぎのとこ以外はけっこう苦みも渋みも酸っぱみもよい堅実な人間ドラマだった前作『ヘンリー・フール』から一転、スパイ・スリラー!という超特大な飛び出し、、、の荒唐無稽さに警戒させられつつも私は、じつのところ本作こそが「この嘘臭い人類世界の真実を抉り出す」という使命感に満ちた大誠実作な気がじわじわしていった。
その根拠は────前作から「詩」という鍵を引き継いでて、三連符ピアノな劇伴が『エンドレス・ポエトリー』(全体主義的圧政をふくめたあらゆる人間性抑圧からの解放!を個人社会両面で遠慮なく求めていこうとする2017年最善の導師映画!!)の主旋律そっくりであり、おまけにそのホドロフスキーの出身国チリでアメリカのCIAがかつて本当に引き起こしたクーデターによる軍事政権ムリヤリ樹立、という隠しようのない暗黒史(一般的日本人はあまりこれを知らないけど、ホドロフスキー支持者は当然勉強してるよね)を当の下手人アメリカ人の立場でしっかりと主題に結びつけてるわけだから、これはもう現在進行形の現代史をいかめしく見つめんとする者の一人としては「鳥肌級映画」の称号用意なのだった。
ということで、詩からの逸脱でも迷走でも何でもない、詩の地道、詩の全開、詩の究極ファンファーレが来つつあるはずで、覗き絵の中に見つけられた文字は何語の何という言葉?のところでゾクゾクはピークに。。。
だが、、、、、、、、、、、そこ止まりだった。

約15度の斜め構図が多用され、右へ左へインディペンデントの自由さで?持ち上がってそれは電話シーンのカットバックで緊迫効果を(狙い通りに)上げたりしたけど、そのうちにバカの一つ覚えにしか見えなくなった。
いや、それはいい。
映画作りの技量の問題じゃない。シナリオ以前。世界認識の問題。やっぱりハートリー監督はただのアメリカ人だってことかしら。ホワイトハウスやペンタゴンや大手マスコミとかにこしらえられた “USA万歳” “ポスト9・11という名の、非イラスム対イスラムのいがみあい” の檻の中から一生出られない大衆の一員ってこと。(これについては後述します。)
結論としちゃ、ポージーら美女三人の魅力がなければ完全崩壊してた退屈な退屈な後半だ。悪いけども、前作を支えぬいたサイモン役ジェームズ・アーバニアクとへンリー役トーマス・ジェイ・ライアンの二人には、スパイ物はヴィジュアル的にまったく荷が重い。かといってCIAエージェントとかの新登場男優らも(観てすぐ忘れちゃうぐらい)貢献度薄かった。
でも、ヘンリーとフェイが妻からの微愛継続中なのに一度も会えずに終わったのは、情趣あったかも。



▼閲覧注意▼

でさ、特別に語るけども、、以前、私の親戚が月給20万円でCIAに雇われてたんで、実際の“スパイ”たちがどれほど地味でバカみたいなトリッキー業務をさせられてるか私は知ってる。。
スパイっていうのはね、あたかも一人一人が一国の代表政治家みたいな意識の高さで世界情勢のエッセンスをスパイ同士で「現場で」話し合ったりすることはない。実際に仕事の一つや二つや三つや四つぐらいで全世界に大影響与えたりすることはない。ないようになってるから。キホン、CIAにかかわる人間の99%はただの(情けないぐらいの)歯車です。これをみんな覚えておいてね。すなわち、この映画のムリすぎる華やかさはデタラメ。ポリティカル・スリラー映画の見すぎなんだよハートリーは。
確かに実際のCIAの下部のバカみたいな者らも世界情勢について一定の知識を持ってて、自分の業務遂行とCIA本体の利益がどうつながるかも、わりと正確に認識してる。だから例えば戦争寸前の二国の向かう先とかについても雄弁に語る時があるけれど、実際に業務としてやらされてることは世界情勢なんかと全然結びつかない「世界最新の育毛剤情報の入手」(これホントだよ!)とか「単なる世間話のかき集め」「とにかくお喋りしてくるだけ」である上に、それぞれ家庭内に奥さんとの不和とか子供のしつけとかどうしようもない平凡な問題(+報酬もっと上がらんかいな)を抱えて犬も喰わない夫婦喧嘩で溜め息ついたり店で泥酔して警察に保護されたり休日に家の外壁を塗り直そうとして梯子から落ちて足首を折って金魚鉢を壊しちゃったり、、、というバカな日常を送りつつ、スパイなんてやめたいやめたいとこぼしつつ、やめたら(正業のほかの貴重な)20万もらえなくなっちゃうし、途中でやめるなんて言ったらCIAに殺される可能性大だし、現に離脱希望した仲間が至近距離で殺されるのを見せられたりしてるから、己の運命を呪う・神を恨むの繰り返しなの。スパイとスパイが「フランスが」「ロシアが」「中国が」なんていう具体的国名挙げての大局的会話なんてしないよ。できるわけない。しても仕方ないんだもん。繰り返すけど、どのスパイもちっぽけな歯車にすぎないもん!
この映画、「スパイのくせに配偶者や子供のことで悩む」のところは確かにリアルなんだけど、リアルなのはそこだけです。くれぐれもみんな騙されないようにね。
ちなみに、2018年現在のロシア政府の公式見解は「全世界のテロの9割以上はCIAによって引き起こされてる。9・11はもちろん自作自演」。それが本当かデタラメかは私たちはどちらの証拠も己の傍らにないのなら肯定も否定もする資格がない。思考を止めずに一人一人が少しでも賢く変わろうとすればいいだけ。もはや映画と関係ないけどね(笑)。

[ハル・ハートリー復活祭]