松井の天井直撃ホームラン

告白小説、その結末の松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

告白小説、その結末(2017年製作の映画)
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☆☆☆☆

流石ポランスキーと言うべきか、(アサイアスとの共同脚本だけど)面白い仕掛けでグイグイと来る。

芸術家の抱える心の苦悩。その僅かな隙間に入り込んで来る寄生虫は、徐々にその毒素を体内へと撒き散らして行く。

作品中に。本の表紙に使用された、特大な母親らしき写真を見た主人公。この時、彼女は露骨に嫌な態度を示す。
どうやら母親との間には、様々な出来事が有ったのだろう…と、推測される。
そしてその事が、彼女の心に重くのしかかっているらしい事も。
あくまでも個人的な感覚として。何となくなのだけれど、P・T・Aの『ファントム・スレッド』と重なる部分を少し感じた。
あの写真自体に『レベッカ』との共通点を…少しだけれども。

主人公の、芸術家としての苦悩は。往々として進まない新作に対し、どうやら限界に達してしまった様に見える。

しかし、そんな主人公に助け船が現われる。

謎のファンのエル!

彼女の助言も有って。主人公の前に立ち塞がっていた【困難な壁】は次々と取り払われて行き。少しずつ新作は、その型を成していく。

だが…。

エルはとんでもない寄生虫だったのだ!

…って事で、このエルとゆう女性!

実は彼女の存在を確認しているのは。ひょっとして、主人公だけではないのか?…を、パーティー会場に現われた時に「あれ?」…と思ったのだが。
実際問題、このエルとゆう人物はこの世に存在していないのではなかろうか?
ここがこの作品のキーポイントと言える。

このエルとゆう女性が街中に現われるのは(正確かは分からないが)作品中には3〜4回くらいだっただろうか。
主人公が常連のカフェらしき場所に、彼女は常に先に座って待ってはいるが、店員と話すのは主人公だし。サイン会やパーティー会場で会う時等は、常に2人きりだった。
主人公が怪我をした場面も。彼女の周りに多くの人達は居るには居るが、彼女は誰とも会話を交わしてはいない。

クライマックスへと行くに従い。このエルの行動は、どんどんとエスカレートして行き。そのオチへと繋がる場面は、普通に画面を眺めているだけでは。最後のサイン会に於ける、主人公のクローズアップの意味合いが違って見えてしまうかも知れない。

小品ながらも。作品全体に漂う毒と確かな演出力で、最後まで目が離せず。堪能させて頂きました。

2018年6月28日 ヒューマントラストシネマ有楽町/シアター1