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告白小説、その結末のumisodachiのレビュー・感想・評価

告白小説、その結末(2017年製作の映画)
3.5
ロマン・ポランスキー監督作品。

人気作家のデルフィーヌは、スランプに陥っていた。ベストセラーとなった著作について誹謗中傷する手紙が度々届くことも、彼女に大きなストレスを与えていた。そんなある日、デルフィーヌは熱烈なファンだという魅力的な女性と出会う。エル(彼女の意)と名乗るその女性と急速に距離を縮め、ついには同居することになるデルフィーヌ。良い刺激を与えてくれる友達ができたと喜んだデルフィーヌだったが……。

誤解をおそれずに言うと、ストーリーとしては平凡な部類だと思う。オチは読めるし、珍しい展開でもない。しかも、ディテールに関してはかなり甘い部分もある。それなのにグイグイ惹きつけれれてしまうのは、さすがだ。

まず、謎の女エルを演じるエヴァ・グリーンが抜群に良い。人間離れした美貌と、異様に大きい目。パーティで再会するというシーンがあるのだが、向こうを向いて座っていた彼女が振り向いた瞬間の目つきが忘れられない。睨んでいるような、笑っているような、怒っているような目。「ああ、これからサスペンスがはじまる」と直感的に感じさせてくれたあの目こそ、本作の根幹をなすものだったように思う。

デルフィーヌ役のエマニュエル・セニエも良かった。独立して手元を離れ子供たち、敢えて分かれて暮らしているテレビ司会者の夫。2人の子どもを育て上げた後に家族から離れ、自殺した実母のことを本にしたことで名声を得たデルフィーヌは、なにかがポッカリと抜け落ちたような、それでいて他の人にはない何かを内に秘めたような、絶妙な気だるさをまとっている。これが『赤い航路』のエマニュエル・セニエ!?と最初は思ったが、おそらくこの人は正しく歳を重ねているのだ。肉感的で妖艶で力強い女優だったが、若いころの鋭さや野性味を宿したまま、子育てをはじめとした様々なことを経験し、自分の中に色々なものを蓄え、夫が撮るこの作品において自分が求めらえていることを完璧に把握して臨んでいる。そんな感じがした。ボロッボロになっている姿も、ゲロゲロ吐いている姿も、子供に電話で冷たくあしらわれてちょっと傷ついている姿も、全部かっこよかったよ!エマニュエル・セニエ!

オチの予想はついているのに、まんまとハラハラさせられた。『ゴーストライター』でもそうだったのだが、住居やインテリアのセンスと存在感につい目を奪われれてしまう。2人の役者のみならず、彼女たちをとりまくすべてのアイテムの調和と、画としての美しさがサスペンスフルな雰囲気に一役買っているのだと思う。ともすればチープに転びそうな話なのに、極上のサスペンスに仕上がっている。

2人の力関係のバランスを描いているという点では、『ファントム・スレッド』とも通じるのだが、本作については私に苦手な《女って怖ーい》感を全く感じなかった。怖い話ではあるのに。何が違うのかなあ。
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