櫻イミト

ミスター・サルドニクスの櫻イミトのレビュー・感想・評価

ミスター・サルドニクス(1961年製作の映画)
3.6
1960年前後に“観客参加型ギミック付きホラー映画”で一世を風靡したウイリアム・キャッスル監督の代表作のひとつ。本作のギミックは、2種類あるラストシーンのどちらかを観客の多数決で決めるという仕掛け。※現存するフィルムは1種類のみ。撮影は「地上入り永遠に」(1953)「俺たちに明日はない」(1967)で2度オスカーを受賞したバーネット・ガフィー。

1880年ロンドン。著名な神経外科医カーグレイヴのもとへ、大富豪サルドニクス男爵に嫁いだ元恋人のモードから「大至急助けてほしい」と手紙が届く。急いで城へ向かいモードと再会するが、彼女は元気そうで呼び寄せた理由をなかなか語ろうとしない。城では隻眼の召使クルールが、男爵の命令で女中アンナの顔面にヒルを貼り付けるという不可解な人体実験を行っていた。やがて顔面を覆うマスクをつけた男爵が現れる。。。

柳下毅一郎「興行師たちの映画史」を読んで気になっていたキャッスル監督のホラー映画を初鑑賞。意外に良く出来たゴシックホラーで、最後のギミック仕掛けも公開当時を偲ばせる味わいがあり楽しめた。

男爵の顔面マスクは「顔のない眼」(1959)、マスクを外す恐怖シーンは「オペラ座の怪人」(1925)、マスク下の顔面変形は「笑ふ男」(1928)と、名作ホラーの美味しいところを上手くミックスしている。顔面変形メイクは後の「ダークナイト」(2008)のトゥーフェイスを彷彿とさせ当時としては出色の出来栄え。

この男爵の怪奇キャラを軸に、顔面ヒルや墓の中の顔面変形死体などショッキングシーンが散りばめられサービス精神は満点。演出もホラー映画のツボを押さえたものでベテランならではの職人技を感じさせた。同時代のB級映画の帝王ロジャー・コーマン監督と比べても、本作でのホラー演出の腕前は上回っていた。

ラスト前にキャッスル監督自身が登場し観客にラストシーンの選択を呼びかけて映画は一度暗転。映画館ではここで観客のカード挙手数を確認し、多数決で選ばれたシーンが上映されたとのこと。しかし大半の観客が“男爵が罰せられる”方の選択をしたため、“赦される”パターンのラストシーンは誰も観たことがないとされる。そもそも1パターンしかフィルムが用意されていなかったとの関係者証言もあり、その胡散臭さも見世物映画として味わい深いエピソードである。
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