人間の情愛というものは、必ずしも綺麗ごとで済まされるものではない。
愛するという行為はこの世界において最も美しいことだが、その行為は往々にしてすれ違い、報われない想いが時に悲劇を生む。
久しぶりに観たフランス映画は、まさにフランス映画らしいねっとりと絡み付くような情感と、各々の情愛が絡み合う類い稀なサスペンスに溢れた隠れた傑作だった。
映画の冒頭、先ず若かりしヴァンサン・カッセルの風貌と、彼の安い演技に対して思わずきょとんとしてしまう。
「これは駄作を引いてしまったか?」と懸念を大いに抱いた反面、何故だか妙に画面に惹き付けられていた。
何も起こっていない安い演技と演出の中に、何かが起こり得る要素はすでに含まれていて、それは巧みに隠されると同時に、絶妙な塩梅によるほのかな香りとして印象付けられていたのだと思う。
他人との何気ない″すれ違い″の中で、すでに情愛のもつれは始まっていた。
目の前に居る人間の言動は、自分が知る由もない思惑を孕んでいる。
真実をすべて知った時、辿り着けるものは、真の愛か幻想か……。
どうも言葉で飾るほど、この映画の本質はぼやけてしまい、よろしくないようだ。
正直、うまく説明することが出来ない。
それは、この映画が、人間の根本的な愚かさを表しているからだと思う。
序盤、安い演技を見せていたヴァンサン・カッセルは、映画の展開と共に雰囲気が一変する。
ラストシーン、婚約者と抱き合いつつ、別の女性を見つめるその眼には、男の艶やかさが満ち溢れている。
そこには愚かさを超え、狂気すら感じる。
圧巻。