幽斎

デス・レター 呪いの手紙の幽斎のレビュー・感想・評価

デス・レター 呪いの手紙(2017年製作の映画)
3.8
ロシア映画が日本も一般的に成ったが、未開の映画大国ロシアの国際マーケットは致命的に脆弱。ソビエト連邦崩壊で映画も衰退の一途を辿るが、Vladimir Putin大統領以降は経済が好転、2004年「ナイト・ウォッチ」以降、映画も息を吹き返す。決定打はレビュー済「アトラクション 制圧」ソニー・ピクチャーズの下に製作され世界中で大ヒット。「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」でロシア映画に触れた方も多いだろう。「アンチグラビティ」「ワールドエンド」ロシア文学が好きな私も最近のロシア映画の潮流は素直に嬉しい。

ロシアの小説は根底に有るテーマが「生と死」に集約される「人はなぜ生きるのか?」哲学的なテーマは、観念的な思考に壮大な死生観が合さり、読了後に思慮に富んだテーマを咀嚼する。難を言えば話が長く回り諄く抑揚ない文章に起承転結もない。英米のミステリーが伏線を回収するスカッと爽やか系とは正反対。故にノーベル文学賞を輩出する国だが、ミステリーは不得意に見える(後述)。

都市伝説を思わせる邦題だが、中身は「世にも奇妙な物語」系。ロシア文学は悲劇に始まり悲劇に終わる。その言葉通り本作も寒々しいヴィジュアル、スクリプトは重苦しく、悲観的なシーンが続く。良く言えば重厚感有る雰囲気に文学系センスを感じる点はロシアらしい。意図的で有ろうが他のロシア映画と較べても色彩が薄く、何なら思い切ってモノクロームでも得えんちゃうの?と思わなくもない。テーマが「生と死」ならば国家の英雄フョードル・ドストエフスキー「罪と罰」的なプロットも奮ってる。

時間軸を弄るのはホラーのお約束ですが、本作の場合は色々見せられるが結果的に「過去の手紙の呪い」重要なファクターに物語が帰結しないので、ループする展開も分り難く、罪人は手紙を運び続けるエピソードや手紙を開けては為らぬ、トリガーを理解しても、真相が霧の中で「モャっ」とした肌触りしか残らない。腑に堕ちない展開は中盤で盛り返すが、脚本がレビュー済「ワールドエンド」Ilya Kulikovで納得、前置きが長過ぎる。

ロシアの女優は若い人もそうでない人も美人が多く、お尻も含め目の保養に成る。役者の演じ方で印象が変わるのがホラー映画。絶叫クイーンがハリウッドの専売特許なら、歌劇では世界最高峰のロシアらしい演者力を見せて欲しいが、製作側の経験の無さが命取り、役者の表情もメリハリが無く、台詞に頼る作劇が続く。プロットが無機物の封筒なので、恐怖の演出には限界が有り、伏線の回収も曖昧なので我々が思う怖さに辿り着かない。

これでもロシアのホラー(ミステリー)としては随分見易く、自分達が朗々と語り過ぎる事を自制してサクサク進むべく、演出のテンポを大事にした点は欧米化に向けて一歩前進と言える。私は敷居を低く、何なら半地下まで下げて観たので意外と高評価。ジャンプスケアを多用するB級ホラーに食傷気味の方には、いい箸休めに成るかも。本作を英語音声で観たなら「つまんねぇミステリーだな」←最高の褒め言葉、ロシア映画も「やっと」其処まで来た。エロもグロもアホも無くシリアスに徹するロシアらしい寓話的テーマに、或る種の教訓を齎す結末はもっと評価されて良い。

ロシアの推理小説はスターリンによる探偵小説の弾圧、ペレストロイカから偏狭な愛国主義の解放を経て、新世代の作家が遂に登場、ロシアのクリスティと絶賛されるアレクサンドラ・マリーニナ、彼女のモスクワ市警殺人分析官アナスタシヤ・シリーズは、レビュー済「特捜部Q」シリーズよりも奥深く心理分析に独特の概念が有る傑作。ロシア文学の翻訳で第一人者、吉岡ゆき氏が難解なロシア語を原作が浮かない様に秀逸に訳してる。他にもボリス・アクーニンなど世界的に通用する次世代ミステリ作家も続々登場してる。映画もこの調子で経験値を上げれば、北欧に肩を並べる日も近いかもしれない。

ミステリー不毛の地と誤解されるロシアだが、邦題に惑わされずホラーでは無く、ミステリーとしてご覧下さい。
幽斎

幽斎