しの

ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間のしののレビュー・感想・評価

2.6
「スタジオポノック今どうしてんのかな」くらいの軽い気持ちで観た方がいい。いのちを繋いでいこうとする「ちいさな英雄」の解釈は三者三様で面白いが、短編の小粒感を払拭できる程の強烈さはない。むしろ長編で観たい話もあり、いまいち食い足りない。

『カニーニとカニーノ』は三作の中で一番インパクトが小さかった。水の表現は写実的すぎやしないかと思ったけど美しい。魚がちゃんと恐ろしいのも良い。しかしそれ以外はやっぱりありきたり。水中であることの面白さもあまり感じられない。キャラクターは魅力的なだけに、もうちょっと話か表現に工夫が欲しい。

『サムライエッグ』は作品単体の完成度では一番だったかも。アレルギーに立ち向かう子どもという物語は短編ならではの規模感で新鮮だし、クライマックスのエモーションも一番強かった。シャトルランの音をもとにした音楽も面白い。それでもまぁ単純な話ではあるので相対的に印象深かったという感じ。

『透明人間』は三作の中で一番好み。他者から見られない、触れられない、求められないという社会的な孤独を透明人間の主人公が可視化する。このままどこかに浮かんで永遠に消えて行くのではないかという恐怖感はリアルだった。だけどこれは長編で観たい。短尺だから畳み方が無理やりでもったいない。

これは日常の片隅で戦う「ちいさな英雄」の物語だから、短編集の題材としては理にかなってるのだが、それならば「ちいさな一歩が実は偉大な一歩である」という実感を与えなければならないはず。つまり、短編であることを忘れさせるくらいの何かがあってほしかった。本作がその域に達しているかというと否であり、次の長編監督探しという印象の方が大きかった。
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