海老

ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間の海老のレビュー・感想・評価

2.7
何故、海老は前回のレビューで柄にもなく遊び半分のショートショートなどを創作したのか。それは本作、ポノック短編劇場へ向けての布石でありました。
急に創作意欲に駆られて勝手に滑ったわけでは、決してないのです。いい大人の黒歴史などでは、断じてないのです。泣いてなんか、いないんです。

とはいえ失敗も成功の母。挑戦しない事は確実な失敗であるからして、あの手この手で少しでも楽しめる文章を追い求めるのです。
そういった意味でも、本作、短編劇場のように、新しい監督が新しい事に挑戦する気概は応援したくなるもの。

TOHOシネマズに通っていると、飽きる程に予告を見る事になる本作。配給が東宝だからか、映画館内の宣伝ぶりも大層なものでした。

正直言いますと、予告を見る限りは「そこまで宣伝繰り返すような内容だろうか?」という不安に似た思いが本音。
物語が短い程、卓越したワンアイディアの密度が欲しくなる。フィルマークスでは比較的有名な「積み木の家」も、表現のアイディアのお陰で、凝縮された情報から想像が膨らみ、尺以上の余白に楽しみを見出せたものです。僕の中ではワンアイディアの代表は星新一先生のショートショートで、これまた簡単に前回レビューで看破された黒歴史はコメント欄参照で。

故に、予告で観た上記の不安の背景は、特別個性的な設定でも無いのに短編で描き切れるの?という不安。
スタジオポノックと言えば、処女作の「メアリと魔女の花」が振るわなかった事も記憶に新しく、そこに来てのオムニバス形式ゆえ「路線の違う作品を数打って民意を問うのか?」という邪推さえあった。

そして実際に鑑賞した感想は、上記の不安を吹き飛ばすには至らず。やはり短編には向かないのでは、という感が拭えない。個々の作品が実はリンクするのか、という微かな期待も叶わず。そりゃオムニバスだものね。エンドロール演出で舞台に横並びして手を振る3作品の小さな英雄の構図は、やっぱり「どれが好きですか?」と問われる感覚。投票カウンターが出てきても不思議でない。

とは言え悪いことばかりではなく、短編としては、と言ったものの、それは物語を見届けたいと言う想いの裏返しでもあったりする。とりわけ、サムライエッグの用いたテーマは胸を打たれる覚えもあった。エピペンを手放せない程に重いアレルギーに苦しみながら夢に足掻く母子の姿。是非とも長編で観たいと思える動線で、短編の尺では彼らの闘いはまだ始まってさえいない感覚さえある。今のところ、幸いにも不自由のない生活を送る僕には想像もできない誰かのリアル。この短時間でも涙腺を刺激される部分もあり、見届けたいと思えた。

そんなわけで、エンドロールに投票カウンターが設置された暁には、サムライエッグに投票いたします。
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