TaiRa

ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間のTaiRaのレビュー・感想・評価

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ポノックの今後を考えて色々試行錯誤してみたかったのだと思う。それならもう少し思い切った作品を並べて欲しかったけど。

『カニーニとカニーノ』米林宏昌が脚本も書いたオリジナルストーリーだが話がない。話がないのはまだ良いが展開もない。川の底に住むカニの兄妹と父親。父親が激流に流されてしまい兄妹は初めて巣を出て父親を探しに行く。普通なら父親を見つけるまでに様々な困難や試練がありそうだが何もなく一直線でたどり着く。だがそこには巨大な魚がいて——これはビジュアルなんかも怖くて良い感じだ——これから盛り上がるのかと思ったら拍子抜けの神の手で終わる。伏線を張って置くならまだしも唐突にアレはないだろ。米林監督は作品を重ねる毎に監督向いてないのがハッキリして来る。

『サムライエッグ』百瀬義行が監督なので作画はとても面白い。卵アレルギーの子供とその母親の話。母親の声を尾野真千子がいい感じに当てている。ダンスや走るシーンの動きが躍動感あって良い。地味に良いのはアイスに刺したスプーンが段々と傾いて行く長いカット。絵自体は良いのだがやはり話の引っ掛かりがない。何かを解決するでもなく(短編だからしなくても全然良いけど)、何かが変わるきっかけも特にない。最後に頑張って走る事に何も意味がないので感情が乗らない。どうせなら百瀬監督には『ギブリーズ episode2』の「カレーなる勝負」くらいくだらない話をやって欲しかった。

『透明人間』山下明彦が監督。優秀なアニメーターが監督した短編という感じで良かった。姿の見えない透明人間は存在感もない。周りの人間から居ない存在として扱われる。透明だから当たり前なのだけど。新鮮に感じたのは彼が重力からも無視された存在で、常に重りを抱えていないと宙に浮いてしまう事。途中で重りの消化器を落としてどんどん空に吸い込まれてしまう。この一連のアクションは面白い。重力と無縁なので重心の定まらない歪んだ立ち姿をしているのも良い。唯一存在を認知してくれるのは盲人と盲導犬だけだ。ちなみに透明人間の声はオダギリジョーなのだがほとんど台詞はない。か細く「すいません」とか言ってるのがリアルで良い。クライマックスに入る時、遠景が入ってからサスペンスが始まるのだが、この遠景で何処を見ればいいのかよく分からなかった。赤ん坊の存在を認識出来なかったのでサスペンスに乗れずに終わってしまった。でも総合的にはこれが一番良いと思う。中田ヤスタカの音楽も良かったし。
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