円柱野郎

ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間の円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

スタジオポノックの短編作品集。
それぞれ15分ずつの「カニーニとカニーノ」「サムライエッグ」「透明人間」の3編で構成される。

短編は短い尺の中で世界観やキャラクターの説明を省略しつついかに的確に観客に伝えるかが勝負になるが、いずれの3編も違った作風の中で上手く構成されていて見入ることができた。
ただ観て思ったのは、一般的にどうしてもスタジオポノックがスタジオジブリの系譜として「子供が楽しめる映画」的なものを期待されてしまう中で、どちらかというと大人のリテラシーに期待したような作品をこの様に出してきたことはニーズとマッチしていたのか否か…ということだった。

1本目の「カニーニとカニーノ」(米林宏昌監督)は、行方不明となった父親カニを探すサワガニ兄弟の小さな冒険を描いた作品だが、3編の中では最も子供向けといった感じの内容。
擬人化されたサワガニの親兄弟が旧人類の様なスタイルで狩りをしている様子などは面白いアイデアだと思う。
(カニのハサミを模した漁具とか)
CGの水の描写なども力が入っているよね。(まあ宮崎駿ならこれを作画でやっちゃうんだろうけどw)
ただ、逆に俺としては最も中途半端に感じる作品でもあった。
子供の成長や食物連鎖をテーマにしている部分もある様だけど、ファンタジーで包んでも隠し切れない頭でっかちな感じがするし、サワガニの親子は擬人化されているのに途中で出てきた別のサワガニがリアルな姿のままだなのは…何故だろうか。
トンボすら擬人化されているのに魚やタヌキはリアルなままだったり、ちょっと世界観の一貫性は引っかかる。
まあそんなところを気にしても仕方ないのだろうが、少なくとも最後のピンチでアオサギが魚を獲ってくれたおかげで助かるくだりは、せめて伏線を張っておいて欲しかったな。

2本目の「サムライエッグ」(百瀬義行監督)はこの3編の中でのベスト。
卵アレルギーの少年が主人公だが、実際には彼の母親の物語でもある。
15分という尺の中でアレルギーだと分かった時の話を回想的に挿入したり、自然教室に行くか行かないかという会話に少年と母親の心情を透けさせるといった構成がとても上手い。
観る前はてっきり“サムライエッグ”なる空想のキャラでも出てくるのかと思ったが、最後までリアリスティックな親子の物語として描かれ、そしてその関係の背後にある愛情に胸を打たれました。
表面的には食物アレルギーは大変なんだという話に見えるけれど、親子愛(文字で書くと陳腐だなw)という普遍的な気持ちが活写されていてとても良いドラマですよ。
尾野真千子が演じた母親のキャラクターがとてもいね。

3本目の「透明人間」(山下明彦監督)は世間から“透明”な存在である主人公を比喩的に“透明人間”として描いたシュールな作品。
3編の中では2番目に好きです。
周りの人たちの目に入らない空気のような存在感を、文字通り「透明人間」として表現するアイデアはとても面白い。
序盤こそ「存在感のなさ」に対する比喩的な表現かと思って観ていたが、そもそも重さもなく地に足つかない場面からシュールさとスペクタクルがいい塩梅で展開され「嗚呼これぞアニメの真骨頂!」と引き込まれた。
主人公は透明なためその表情は見えないが、「俺はここにいる!」と言えない彼の孤独感がビシバシと伝わってくる。
そんな彼に声をかけたのが盲目の老人というのも、その皮肉さと暖かさが良いね。
主人公の心情を反映して全体的に灰色で暗いが、ラストで赤ん坊を救って陽が射すあたりは実に王道な演出。
極力説明を排した作品でもあるので、そういう画による説明がより生きていると思う。
あと、ラストに「いないいないばあ」と言わせるセンスがいいなあw

というわけで3編、個人的には満足感のある短編集です。
でもやはりこれって大人目線での満足感だと思うんだよね。
特に「サムライエッグ」の良さは母親の心情がくみ取れてこそだし、「透明人間」もその“透明人間”というメタファーにこそ作品の面白さがあるわけで、少なくともターゲットになるのは小学校高学年くらいより上になるんじゃないかな?
でも「カニーニとカニーノ」のビジュアルでどうしても子供向け作品に見えてしまう部分があって、それが逆にこの短編集の足かせにもなっているんじゃないかと思った次第。
とはいえ内容的にも野心的な企画だと思うので、ぜひともこの「短編劇場」を続けていってもらいたいと思ったのでした。
円柱野郎

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