TaichiShiraishi

止められるか、俺たちをのTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

止められるか、俺たちを(2018年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

時代背景や若松プロのことを何も知らない人には不親切なつくりではあるけど、最高に熱い素晴らしい青春映画だった。

白石監督は実際に若手時代に若松プロで見習いからはじめ助監督業務をしていた。

劇中のめぐみと同じように何度も若松監督に怒鳴られたりしていたそうな。

白石監督は優秀な助監督だったけど、監督は自分にはできないと思っていたとのこと。

若松孝二のような異常なまでの情熱や型破りさがないと監督にはなれないと思っていた。

この点もめぐみと重なるし、
自身の初監督作の試写で若松の意見が気になったというのも同じ。

この作品は実在した吉積めぐみという女性助監督の話でだけど白石監督自身の話でもある。

めぐみは夢半ばで儚い運命となったが、めぐみの死後に生まれ同じく若松に育てられた監督が彼女をスクリーンに蘇らせたという話だけでもグッとくる。

そして晩年の若松作品に多数出て若松孝二に育てられた井浦新が若松監督本人を演じ、若松プロのスタッフたちも実際に若松孝二とゆかりの深い役者が演じている。

少しだけ登場する寺島しのぶや奥田瑛二、渋川清彦も若松組の俳優。

足立正生や荒井晴彦、高間賢治も現役で映画界で活躍中でこの映画にアドバイザーとして関わっている。

そんな現場ゆえに若松プロも当時の荒れた日本の空気感も見事に再現されている。
若松孝二がどんな人かも知らなかったが、井浦新のあくの強い芝居の若松が魅力的過ぎて、この人の作る映画なら面白いに違いないって思わせてくれる。

めぐみを演じた門脇麦も生前の若松監督を知らないという点がなんにもわからないまま若松プロにやってきて徐々に映画の世界そして若松孝二や足立正生に惹かれていくめぐみの姿にリアルにシンクロしていた。

そしてテキパキ動いて素っ気なくも優しい女子像が本当に似合うし、さすがの演技力。



そして若松プロの映画を撮影風景も含めしっかり再現してくれているのも見所。

本作で登場する若松プロの映画は全てピンク要素がある映画だけど、エロは表現のための手段に過ぎない。
逆に「男女の絡みさえあれば後は何しても自由」という制作体制だったから政治的にも倫理的にも尖った作品がたくさん生まれた。


まるで映画界全体が青春と呼べるような時代。


そしてこの映画は昔の若松プロを再現した映画でもあるけど、何よりもめぐみと言う1人の女性の話。

彼女は映画が好きで若松プロに入るけど当初はどんな映画を撮りたいというビジョンは持ち合わせていない。

しかし、途中で自分の初監督作で失敗してから彼女にも沸々とこみ上げるものが出てくる。

それを表すのが劇中に2度ある男たちの放尿のシーン。

最初の若松と赤塚が放尿するシーンではめぐみはそれを面白がって見ているだけだが、後半でガイラやオバケが放尿する時は「あたしも~」とやたらと放尿したがる。

このエピソードは史実もあるかもだけど、ここにおける放尿とは「自分の作品や思想を世に放つこと」を表しているのでは。

新人の時は若松・赤塚の天才2人の放尿を遠い世界のように見ていましたが、同じ助監督だったガイラとオバケが自分たちの映画を撮りだした時期の放尿には過剰に反応する。

自分はまだ自分が世間に伝えたいことが見つかっておらず、まだ満足いく監督作もない。めぐみにはそんな意識が芽生えていた。

しかし彼女は新聞記者の取材とは裏腹に映画製作のために女を捨て切れることができなかった。

足立に恋をし、高間と関係を持ち、子供ができれば気遣ってしまう。

最後には女であること、母親になることのプレッシャーに負けたかのような最後を遂げる。

映画前半ではバックボーンも何も分からずに映画作りにのめりこんでいくめぐみの姿が描かれているが、
妊娠や才能の壁にぶつかる後半では、彼女の家族や昔のことが段々とわかるようになっている。まさかの母親をママと呼ぶ一面まで。

そして突っ走るのをやめた彼女は自分で自分の足元をすくわれてしまった。

前半では彼女を鼓舞する役割だったウィスキーが最後の最後で彼女を殺す事になるという小道具の使い方も上手い。

しかしこの映画は悲劇の映画ではない。

映画のラストでも描かれているように若松孝二は世間への怒りをぶつけた映画を2012年に交通事故で亡くなるまで撮り続けた。

めぐみの死から40年以上。
若松孝二は愛弟子の死という理不尽な現実への怒りも創作のパワーに変えて突っ走った。

それは同時代の仲間たちや後の世代の白石監督や井浦さんにも伝わり伝播するほどの熱意だった。

そして結果としてめぐみは死後40数年を経てスクリーンに蘇った。

歩みを止めなかった若松プロだからこそできた奇跡のような作品。

「止められるか、俺たちを」の「俺たち」の部分には若松プロの人間たちや大島渚、本作の作り手たち、あの時代に戦った人間たち、など途方もない人数の(それこそパレスチナゲリラも含め)関わりが入っていると思う。

ちなみにパンフレットが本当にインタビューや解説満載の超満足できる内容だったので必見。
TaichiShiraishi

TaichiShiraishi