とむ

止められるか、俺たちをのとむのネタバレレビュー・内容・結末

止められるか、俺たちを(2018年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

観れてよかった。
学生時代に映像を学問として学んでた自分にとって、
ここまでどストレートにぶち込まれた青春映画は他にない。
尤も、ここまで過酷な現場にはほとんど参加したことはないけれど。

井浦新の芝居が、
うちの大学にいた教授兼監督にやたら似ていてそこにも妙に親近感を覚えた。
っていうか井浦新、こんな芝居できるんだね…。


合わない奴はとっとと辞めていくけど、
そこに居心地を見出してしまった人々にとってこんなに素晴らしい場所はない。
金はなくても、仕事は地獄でも、思うように事が運ばなくても、
ここには人と夢がある。
そんな分かる人に分かれば良い系のシチュエーションドラマ。

かと思えば、
オバケとめぐみの別れ際のやりとりとか、
小学校のプールに素っ裸で飛び込んでキスするシーンとか、
見てるこっちが恥ずかしくなるような純粋な青春シーンが繰り広げられたりする。


個人的に響いたのは、
「だったらしょうがねぇな」のシーン。
オチに繋がってしまうのかもしれないけど、
酒飲みながら、
何度も稿を重ねながら、
くしゃくしゃに丸めた原稿用紙を壁に叩きつけながらかんがえたもんが、
自分でも失敗だってわかってるものを冷静に突きつけられるのは、
やっぱ辛いもんがあるよな。
それも、いつもなら怒鳴り散らしてるであろう若松孝二に、あれやられちゃあね…。


サイタマノラッパーとか、
苦役列車とか、アマデウスとか、
自分が天才じゃなかった人に向けられた作品って、ある意味卑怯で。
だって世の中に生きてる人間のほとんどは「そちら側」なわけで。
響かないわけがないんですよね。
こんなもん。


満員電車に揺られて会社に通い、
やりがいのある仕事ばかりは受けられなくて、
同時期に入ったやつの方が面白そうな仕事をこなしていて、
それでも毎日深夜まで働いて、
代わり映えのない額面の給料を毎月もらって、
それを数ヶ月、数年単位で繰り返して…。

そんな日々に何か意味があるのか、と思ってしまう事が多々ある。

夢に挫折した人間に、世間は優しい。
愛する人を見つけて、結婚して、子供ができて、
ふとした瞬間に「あの時の俺は若かった」と振り返ることも、
ある種幸せなのかもしれない。

でもその幸せに、何か意味があるのだろうか?
心の片隅で夢を追いかける自分には、その尊さはまだわからない。

三島由紀夫の死に対し、
若松孝二は「死んだら終わり」と言った。
でも、「死なずに続く」こととでは、
どちらが絶望なんだろう。

でも結局、絶望を抱え続けることで、
生きる希望を見つけるしかないんだろう。
あーあ。俺、なにやってんだろ。
とビールでも煽りながら。


「若松プロ、嫌になった?」
「居心地が良すぎるんだよ」
これもある種、どこにでもある絶望。
とむ

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