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止められるか、俺たちをの小のレビュー・感想・評価

止められるか、俺たちを(2018年製作の映画)
3.7
こういう「場」嫌いじゃない、というより好きかも。若松孝二監督が代表を務めていた若松プロダクション。若松監督は教えてくれないどころか、よく怒るうえ理不尽で腹の立つことばかり。しかし「映画で世の中をぶっ壊してやりたい」という彼の熱量に煽られ、気持ちが高揚してくる。来るもの拒まず、去る者追わず。彼とどう向き合うか、すべては自分次第。

時代は1969年。学生運動が盛んだったころだから、自分達の力で世の中を変えてやるという思いが今よりもはるかにリアリティを持っていた時代。何者かになりたい吉積めぐみの若松プロでの活動を通じ、若松孝二と彼の周囲の人々の生き様、時代を描いていく。

ハラスメントなどが厳しくなり、理不尽なことに対する許容度が低下している現代において、四の五の言わずにとにかくヤレみたいな、サラリーマンの世界なら「ブラック企業」の烙印を押されること間違いなしな状況にあって、こういう映画ってウケるのかしら。

だけど自分のこれまでを振り返って印象に残っているのは、大学生2年生の頃、週2回のゼミのため仲間と愚痴をこぼしながらも毎日徹夜してレポートを作成したこととか、社会人になって泣きそうになるくらい追い込まれてもなんとか凌いできたこと。

凄く辛いのだけれど、乗り越えた時の成長実感とか仲間同士の連帯感を得た後では、とても楽しい場になってくる。数十年たった今でも、気のおけない仲の人達はこうした感覚を共有した人達だったりする。

でも、自分のような価値観が良いかといえば…。白石和彌監督は次のように語っているけれど…。
(https://tokushu.eiga-log.com/interview/13141.html)

<働き方改革とか言ってるけど、戦後の日本がまっさらになって、でも70年代を過ぎて日本が経済大国になれたのは、みんな寝ないで働いたからですよ、はっきり言って。パワハラもセクハラも関係なく。もちろん良いとは言わないし、改善できるところは改善しないといけないと思うし。でも、これから人口が減っていく中、(今のように)ゆるく働いていて、経済的に苦しい中で、それは立て直せるはずがないですよ。それを日本の政治家は何にも考えていないと思いますよ。>

<当たり前なんだけど、青春ってただ楽しんでるだけじゃなくて、記憶がなくなるくらいに何かに一生懸命打ち込んでいる時期がないと、やっぱり何かを成し得ることはできないというか。そういう時期は絶対に必要だから。寝ないで働いてたとか、寝ないで研究に打ち込んだからノーベル賞をとれたとか。伝記になんか出てくるような人はみんなそうです。だから、そういう人物が生まれにくい世の中を一生懸命作っているんですよ。>

半分賛成で、半分反対かな。<記憶がなくなるくらいに何かに一生懸命打ち込んでいる時期>はあったほうが良いけれど、それは<何かを成し得ること>が目的ではなく、「自分のしたいこと」をするためにあったほうが良い時期なのだと思う。「自分のしたいこと」は背後世界(=社会的価値観)に縛られる必要はない。

「何かを成し得ること」って、場合によっては自分という存在をスポイルしてしまうことにもなりかねない。映画ではまさにそういうことが描かれていると思うけれど、本作は「にもかかわらず『止められるか、俺たちを』」なんだろうなあという気がする。

現代が「経済成長」とか「偉人になる」ことを難しくしているというのはそうかもしれない。でもそうした目標を良しとする社会的価値観が変わってきているかもしれないという視点は必要ないのかな? 映画にこそ、それを期待したいのだけれど。

●物語:3.0
・こういう「熱」は好きだけど、その先がなあ…。

●その他:4.3
・キャラがそれぞれに立っていて退屈しなかった。

※2019年から「物語」と「その他」の2項目を半々で評価しようかと(映像とか音とかは知識がない自分には言葉が少なすぎるので、増えてから…)。
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