こなぱんだ

旅のおわり世界のはじまりのこなぱんだのレビュー・感想・評価

旅のおわり世界のはじまり(2019年製作の映画)
4.0
一言で表すと「おじさんが若い女の子に優しく諭す映画」。本当に様々なことを考えたし感じたという意味で、4.0でした。

まず、前半のヤギを放すまで、知らない土地を前田敦子がすごく不機嫌そうな顔をしながら歩いているシーンがめちゃくちゃあるんですが、その"感じ"とかをめちゃくちゃ自分の事のように感じてしまうんですよ。知らない土地で、言葉も通じなくて(そもそも前田敦子はこちらからコミュニケーションを取ろうとしない)、夜は怖いし、知ってる人も基本いないし、ロケ隊の人たちは仕事だからって優しさのかけらもないし(表面上はなんか気遣ってくれるけど)。
これは、自分が海外に行った時に感じる時もあるし、普通に新宿駅とかで感じる時もあるし、そんな状況になったら、自分を守るためにイライラして闘うしかないんですよ、自分の居場所を失わないために、闘うしかない。

前田敦子が乗り物に乗せられて結果吐いてしまうシーンとか、(それまでのシーンとかもそうだけど)めちゃくちゃ人が見てるんですよ、そういう時って、本当に周りで見てる知らない人達を憎むくらい辛い。

でも、そんな自分も嫌だし、だから嫌なことが続いて、本当に世界を拒絶したくなる。そんな時に、ヤギに出会って、ヤギだけは自分にフラットな状態で近づいてくれて、そしてそのヤギが繋がれてるのを見て、「あ、私だ」って思う(葉子が思ったかはわからないけど、少なくとも私はそう思ってしまった)。

でも、前田敦子が1人でいるシーン(ほとんどですが)、前田敦子を取り囲む全てが美しいんです。景色とか、風とか、カーテンとか。そのように世界を"意図的に"切り取っているのはやはり一応は黒沢清なわけで、私はそこに黒沢清の優しさをめちゃくちゃ感じてしまい号泣してしまった(本当に本当に恥ずかしい)。

そして、後半。警察?かなんかに捕まって、テムルが来てくれて警察?の人かなんかと話すシーンがあるんですが、その応答がもうすごいんですよ。「あなたはなぜ逃げたのですか?」「私たちはあなたと話をしたかっただけなのに、逃げるから追わなければいけなかった」「あなたは私たちが怖いのですか?」「出会って、知って、話し合わなければ本当のことはわからないのではないですか?」こんなような質問を矢継ぎ早にするわけですが、これが発している警察官を映さず、前田敦子だけを映している。これらの言葉が黒沢清の言葉に思えて仕方が無い(妄想ですね)。未知のものに対しての姿勢、についての話かと。

その後すぐに起こる日本の事件、葉子の彼氏のパートは「なんだかよくわからないな」というパートでした(最後、愛の讃歌を歌う時の歌詞が「どんなに2人をわかつとも離れない、死んだとしても」みたいな内容なので安易に恋人を死なせて恋愛ものみたいな受け取られ方を防ぐためか?とも思いましたが)。

最後、山に行って放したはずのヤギを見つけます(前田敦子は「オック」と言っているので放したはずのヤギですが、それがオックなのかは確かめようがない)。ヤギは崖を登っていき逞しいな~という感じです。
その後前田敦子が「愛の讃歌」をフルで歌う。広々とした山の上で歌って、最後、前田敦子がカメラ目線のドアップで歌いきり、タイトル。で、終わりなのですが、旅のおわり「世界のはじまり」のタイトルそのままに、「世界のはじまり」はやはり自分にしかないのだ、みたいな、そんなふうに私には受け取られて、またも号泣。

だけど、あのヤギ、オスじゃん!!!!みたいな気持ち。この映画を見ている間、ずっと頭にあったのが黒沢清と同じ立教出身の森達也監督の、「世界はもっと美しいし人はもっと優しい」という言葉。それをずっとフレームを通して黒沢清に言われているような気分でした。でも、それって、地位も名誉もあるあなたたちおじさんだから言えるんじゃない??とも思ってしまう。もちろん、言われることは嬉しいし勇気づけられるかもしれない。でも、フレームの外でフレームを切り取っている黒沢清は、映画の葉子に何もしてあげられないじゃないですか、そんなようなことを感じ、非常に嬉しさ100絶望100みたいな気持ちになった。

完全に冷静に見れていません、でも、面白かった。パンフレットかなんかで、加瀬亮が「もう世界は嫌だ、嫌いだと意固地になって扉を閉ざしている女の子に、そんなものでもないよ、大丈夫だよと言っているような映画」(うろ覚えです)と言っていたのですが、まさにそんな映画だと思います。
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